5-89【急な覚悟も仕方が無い2】



◇急な覚悟も仕方が無い2◇


「「「「……」」」」


 無言は続いていた。

 それぞれ考えがあるのは当然で、答えを急かすような真似はしない。

 だけど、口を開く……せっかちな俺の姉。


「ねぇミオ……」


 真剣な顔で俺をとらえるクラウ姉さん……駄目だめだな、誤魔化ごまかせない。

 どう説明するべきか……この前ユキナリから聞いた事を、変に分からない風に言うか?それとも素直に、日本からの特殊な転生者だって言うか?

 聞いた話だけど……って前置きすれば、何とか。


「……なに?」


「――ユキナリ・フドウは、どうして今回の依頼を受けたのかしら」


「へ」


 え……あれ、意外だな……食いついてこない。

 そんな俺の意外そう(マヌケそう)な声に、【叡智えいち】さんが。


『――クラウお姉さまは、亜獣【アルキレシィ】の件を優先していると思われます。ご主人様の話を聞いている際も、百面相のように表情を変えて……自問自答をしておられましたから』


 な、なるほど……その結果、取りあえずは【アルキレシィ】最優先にいたったのか。

 いやでも……それってつまり、最終的には説明しろって事だよな?


『……でしょうね』


「……だよなぁ」


「――は?」


 おっと、変なタイミングで声が出てしまった。


「いや、何でもない。ユキナリの奴が依頼を受けたのは……単に依頼の難易度が高いから、ポイント稼ぎにいいと思ったんじゃないかな」


 実際、あいつは何度も高難易度をクリアしてるらしいしな。

 しかも単独。二年の先輩からの評価も関係無い。

 その代わり、そうとうポイント稼がないと進級できない……ってな感じらしい。

 それは……クラウ姉さんも知ってるだろ。

 うわさだけでも、そうとう広まってるからな。


 クラウ姉さんは俺の言葉を聞いて……あごに細い指をわせ言う。


「確かに。首席の立場から考えても……それが妥当だとうだけど……」


 だけど……転生者だからな。

 クラウ姉さんは、考えつつも続けて。


「――高難易度を単独で受ける……しかもそれを学校側も許してる。その時点であの男は特別スペシャル……実力もだけど、その存在自体が……特別になりつつあるわね」


 転生者だから……クラウ姉さんがその言葉を言わないのは、“自分もそう”だから、もそうだし、今は面倒臭めんどうくさい話を増やせないと言う配慮だろう。

 解決したその後が怖えんだけど。


「うん。俺もそう思うよ……だから余計にさ、あいつに……もしも【アルキレシィ】が倒されたら……」


 そうだ。

 今は、それだけが不安なんだ……だから急がないといけない。

 転生者であり、二年生の首席を瞬殺する実力……なにかチート能力があるのかもしれない……その能力で、あの実力を得た可能性だってある。

 【アルキレシィ】が倒されてしまう可能性……それだけは何としてもつぶす。


「ええ、そうね。急がないとマズい……いいわね、ミーティア……イリア・・・も」


 クラウ姉さんもその危険性を分かっているからか、特に何も追求せずに俺の言葉にコクリとうなずいて、二人に言う。

 そういやぁ……クラウ姉さんはイリアの事をキルネイリアって呼んでたよな。

 もしかして、今日で仲良くなったのか?


「え、ええ……私は大丈夫よ、クラウ」


 少し緊張しながらも、ミーティアは答える。

 そして……イリアは。


「……は、はい……私も……で、す」


「「「……」」」


 その言葉は、とても震えていた。

 俺たち三人が固唾かたずを飲むほどに……身体を強張こわばらせ、顔を青くさせて、そして……今にも泣きそうな子供のように。

 心を……恐怖に鷲掴わしづかみにされているようだった。

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