5-88【急な覚悟も仕方が無い1】



◇急な覚悟も仕方が無い1◇


 その日の夕方。


 俺がロッド・クレザース先輩の部屋で説明を終え、自室に戻って来ると。

 なんとも丁度ちょうどいいタイミングで、女の子……ではなく、トレイダ状態のミーティアが帰って来た。

 その後ろには、クラウ姉さんもいる。


 ねぇ、最早もはや普通に男子寮にいるんだけどこの人。


「あれ、ミオ……どうしたんだい?」


 男子の口調で、トレイダは言う。

 ひょこっとクラウ姉さんも後ろから顔をのぞかせて。


「ただいま」


「――いやおかえり……じゃなくてさ、いや、いいや」


 言っても意味なさそうだしな。


「それで、ミオは何をしてたのよ?出かけてた……にしてはラフよね?」


 俺の格好を見て、外に行った訳ではないと気付くクラウ姉さん。


「あ、ああ……うん。中に入ってから話すよ……で、イリアは?」


 念の為周りを確認しながら言う俺の言葉に、トレイダが答える。


「え?今帰ったばかりだから……まだ近くにいると思うけど」


 それは呼んでおきたいな。

 つーか、イリアがメインだしなぁ。


「クラウ姉さん、悪いんだけど……呼んできてくれる?」


「なんで――あ。分かったわよ……まったく」


 俺の指名の意味を理解してくれて、クラウ姉さんは一瞬の判断で【天使の翼エンジェル・ウイング】を広げ……窓に足をかけて言う。


「部屋の窓、開けときなさいよ?」


 外から来るんですね分かります。


「分かってるよ……よし、じゃあトレイダも、話……いいかな?」


「あ、うん!」


 そうして、俺とトレイダは自室に入る。

 ほどなくして……窓の外から金髪の小さな天使と、吊られたおびえたハーフエルフが見えたのだった。





 説明は簡単だ。

 グレンのオッサンが来てからの事……一部をはぶいて述べればいい。

 は?……どこをはぶくって、ミーティアのパジャマに決まってんだろ。


 俺は、グレンのオッサンが【アルキレシィ】関連の再依頼をしてくれる事……ロッド先輩がそれを許可してくれたことを、三人の少女に説明し終えた。


「……ふぅ……のどかわいたな」


 ぶっ続けで、休むことなく説明を終えた俺は、ミーティアが淹れてくれたアイスティーを飲む。


 コト――と、空になったコップをテーブルに置くと。

 クラウ姉さんが、考えながら言う。


「――ユキナリ・フドウって、何者なの?」


「……」


 そりゃそうだ。

 事の発端ほったんは、ユキナリのやつが……【ハバン洞穴】探査の依頼を、選んでしまった事だ。

 高難易度をクリアできるに実力に加えて、単独での行動が許可された転生者……ユキナリだから選択できる依頼だったんだ。

 そうでなければ、【ギルド】の依頼掲示板の隅っこで、長年くすぶり続けるような依頼なんだからな。


「「「「……」」」」


 無言……それぞれ考えは違う。

 俺は、クラウ姉さんにどうユキナリの事を説明するか。

 クラウ姉さんは、ユキナリの素性を怪しんでる……俺は本人から聞いているから、一応説明できるけど……俺が怪しまれかねない。


 ミーティアは、俺とクラウ姉さんをちらちらと見てる……気、使ってるな。

 そしてイリアは……遂にその時が来たのだと、身体を震わせていたのだった。

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