5-87【告げる鐘の音3】



◇告げるかねの音3◇


 ユキナリの奴が【ハバン洞穴】に向かった。

 その事実は、今回の件に関わっている全員の誤算になった筈だ。


「金は気にすんなって……まさか、ミオガキ……」


「ああ、俺が素材を集めて金を作るよ……だから、オッサンはすぐにでも依頼を出してくれないか?でもって、その依頼を今すぐロッド先輩に受けてもらう」


「そいつはいいが……」


 この一ヶ月で、トラブルが発生した場合の事も考えてはいた。

 そのななめ上を行く展開だが、起きてしまった事は仕方が無い。


「オッサン、【アルキレシィ】が夏に弱まる……時期はそろそろかな?」


「……いや、もう少し――だが、行けなくもない感じではある」


 オッサンは指折りで数を数える。

 五本の指を一往復……もう十日くらいは欲しかったって事か。


「なら、すぐにでも行動しよう……仲間は集めておく、何日あればいい?」


「おいおい……だいじょ――うぶなんだな?」


 俺の顔を見て真剣に言うオッサン。

 途中で間が開いたのは、「大丈夫なのかよ?」って聞こうとしたからなんだろうな。


「――ああ、任せてくれ。だから……」


「分かってる。オレもオレでやるさ……ミオガキに金を出させんだ、しっかりと指名依頼を出させてもらう、ロッド・クレザースでいいんだな?」


 俺はうなずき、今後の指針が決定した。

 今日中にでも、オッサンは依頼を出してくれるだろう……しかも指名依頼だ、これは余計に金が掛かるが、その人物に直接依頼を出せる仕様であり……だれかに邪魔される事はない。

 初めからやっておけよと言うツッコミは受け付けないぞ、ユキナリがその依頼を受けるだなんて、想定外すぎるんだからな。


「ああ、ロッド先輩で構わない……もう許可は得ている」


「了解だ……っと。そんじゃま、早速【ギルド】に行くわ」


 オッサンは立ち上がり、水をがぶりと飲み干す。


「頼むよ、グレンのオッサン……俺は」


 玄関先に向かうオッサンを見送りながら、失敗できないという事をつたえようとするが。

 オッサンが振り向き、言う。


「――分かってんよ。イリアの嬢ちゃん・・・・・・・・の為だ」


「あ、ああっ!」


 やっぱり、オッサンとイリアを会わせておいて正解だった。

 直前で会わせてたら、もしかして変にぎくしゃくしてたかもしれないしな。


 そう言って、グレンのオッサンは部屋を出て行った。

 予定としては【ギルド】に向かうのだろう。


 なら……俺も行動だ。

 ミーティアたちが帰ってくる前に、まずはロッド先輩に報告だ。

 こんな時になると、連絡手段が欲しくなるよな。


「そんな能力ない?ウィズ」


 都合のいい展開を望む俺に、【叡智えいち】さんは。


『残念ながら。相手方が所持していないと意味のない能力ならば、存在しますが……』


 電話かよっ。

 俺だけが使えても意味ないって事ね。

 はいはい、無い物ねだりですよ……いさぎく諦めます。

 そんな事を考えつつ、俺はロッド先輩の部屋に向かうのだった。

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