5-86【告げる鐘の音2】



◇告げるかねの音2◇


 グレンのオッサンは、まるで別人のように落ち着き……冷静に、けれどもこの状況が緊迫したものだという事を知らしめるように、真顔で俺に言う。


「いいかミオガキ……【アルキレシィ】の件だが」


 俺は「お、おう」とごくりとのどを鳴らして正座し、オッサンの言葉を待つ。


「……俺が【ハバン洞穴】に探査の依頼を出したのは知っているだろ?」


「……ん?ああ、【ギルド】にもずっと張り出されてるな」


 【ギルド】内では、そこに【アルキレシィ】がいることが知られているからだろうから……大手を振ってその依頼を学生たちに進めてくる事は無かったらしい。

 一部では、一攫千金を狙う個人冒険者が依頼を受けようとしたらしいけど。


「――その依頼だがな……」


「あ?」


 なんだ……言いにくそうに。

 オッサンは歯切れ悪く、言葉を選びながら……言う。


「その依頼……受理・・された」


「は――」


 はあぁぁぁぁぁぁ!?依頼が受理だって!?

 つまりは、【ハバン洞穴】を探査する危険な依頼を、受けたやつが出たって事だ。


「――い、いつっ!?」


「今日だ……オレがここに来る前な」


 きょ、今日だって!?


「じゃあ、依頼は……!?」


 俺はいつの間にか立ち上がっていた。

 それほどまでに、急すぎるし……それに――ヤバイ。


 もし、A級冒険者のような手練れがその依頼を受けた場合、最悪……【アルキレシィ】が倒される可能性もあるかもしれない。


「受理された以上、そいつのもんだ……だから、さっき会って来た」


「誰だよ、こんな依頼受けたのっ」


 そうだ……そんな奴、学生にいるのか?


「……確か、ユキナリとか言ってたか……黒髪の、元気のよさそうなガキだったな」


「――なっ!!ユキナリ……!?」


 まさかの名前だった。

 ユキナリ・フドウ……まさか、あの馬鹿がこの依頼を受けたってのか。


「知り合いか?」


「あ、ああ……少し話した程度だけど」


 俺は座り直して、一度息を吐く。


 ユキナリ、あいつ……最近姿見ねぇと思ったら、なんでこの依頼受けてんだよ。

 ややこしいことしやがって。


「……どんな奴なんだ、一人だったぞ?あのユキナリってガキは」


「個人で依頼を受ける事が認められた……一年生だよ」


「そいつは本人から聞いたが、どこまで自信家なんだ?【ハバン洞穴】は立ち入り禁止地区だ、危険だからってのもあるが……【ギルド】は【アルキレシィ】についても把握はあくしているはずだ……おいそれと勧めはしねぇよ」


 それを、ユキナリのやつは受けたんだ。

 誰も依頼を受けないと分かっていたから、早くにオッサンが依頼を出していたのに。


「オッサンはなんで許可を出したんだよ……」


「許可を出すのはオレじゃねぇって、【ギルド】だ……オレは依頼者ってだけだっつの。だが……失敗は失敗だ」


「……どうする?」


 今後の話だ。

 依頼を先に取られてしまった以上、俺たちは【ハバン洞穴】へ入れない。


「考えているのはいくつかあるが……金がねぇ」


「金……?ああ、そうか」


 オッサンは口惜しそうに言う。

 そうだよな……依頼を出すためにも、資金がいるんだ。

 なら、金は俺が出す。


「オッサン、金の事はいいよ……気にしないで出してくれていい。後で俺が払うからさ」


「――おいおい、高難易度依頼は結構な額だぞ!?」


「大丈夫。それよりも、今後の話をしよう……考えれば、急がないと……だろ?」


 この際、資金の事はいい。

 適当に冒険でもすれば、素材はいくらでも手に入るからな。

 それを売ればいい。だから……あとの問題は、どうやって【ハバン洞穴】に行くかだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る