5-84【来たるべき夏】



◇来たるべき夏◇


 グレンのオッサンが手に持つそれは、昨夜にミーティアが着ていたものだ。


 ヤバイ――ヤバイヤバイヤバイ。


「いい趣味しゅみしてんじゃん、ミオガキ」


 どうする、どうすれば言い逃れ出来る?

 男子寮にある女性ものの服……それを見られた時の模範もはん解答求む!!

 誰か助けてくれ!!


「いや……それは、さぁ」


 オッサンはニヤニヤしながら、パジャマと俺を交互に見る。

 いい趣味しゅみってなんだよ、俺のじゃないんだって……だけど、どう説明すれば。


「それにしても、この服の持ち主は……良い身体してんなぁ」


「はぁ!?」


 おいこらオッサン!

 なにじっくり観察してんだよっ!

 オッサンが気軽に見て良いもんじゃないんだ!!


「返せっ!」


 いつまでも持ってんじゃねぇよ!けがれんだろうが


「――おーっと!」


 ブン――と、俺がそのパジャマを取り返そうと思ったが、オッサンはひらりと身をひるがえしてける。

 くそ……意外と動けるっ!


 オッサンはリビングに戻っていく……俺もすぐに後を追う。

 何やってんだろ、俺。


「いい加減にしろよっ!グレンのオッサン!」


「何がだよ……」


 オッサンは座り込んでいた。

 ミーティアのパジャマを持った手で、頬杖ほおづえをつきながら。


「いいからそれ返せって……俺の……だから」


 何言ってんの俺!?

 いやしかし……女装趣味とうたがわれれば、ミーティアの事はバレない!

 覚悟を……決めろ!!


「はぁ?お前の……バカ言えミオガキ、どう見てもお前の体格じゃ着れねぇっての」


「……ぐっ」


 オッサンはパジャマを丸めて、俺に投げつける。

 ポフっと、俺はそれを受けたが……続けてオッサンが言う。


粗方あらかた、この部屋の中とお前らの状況は把握はあくした……大変だな、ミオガキもよぉ」


「は?……なんの事だよ、いったい」


「……オレも冒険者の端くれだ、【観察かんさつ】なんて能力もある。ま、だから魔物図書なんて経営してんだけどな」


「いやだから……何の話を」


 能力――【観察かんさつ】。

 名前の通りなら、見ることの出来る力……だよな。


「――なぁミオガキ。今のこの話と……【アルキレシィ】の話、どっちが聞きたい?」


「――は」


 なんだよ、その二択。

 今の話ってのは……オッサンがこの部屋に来てからの事だろうけど。

 それと【アルキレシィ】の話を一緒にすんなって。


「んはははっ!なんだその顔っ……しょうがねぇな、おら!ミオガキも座れ、話してやんよ」


「――るせっ!あんたの部屋じゃねぇだろっ、我が物顔で言うな!」


「だっははは!そりゃそうだっ」


 涙目で爆笑するオッサン。

 くそ、マジで腹の立つ。


 あ……もしかしてあれか。

 このオッサン、先週俺がイリアを会わせた事……根に持ってんじゃねぇだろうな!?

 その可能性を考え始める俺と……爆笑し続けるグレンのオッサン。

 しかし、オッサンの持って来た話は……これから来る夏の、イリアの戦いの始まりを告げるかねだったのだ。

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