5-83【嫌な訪問者】



◇嫌な訪問者◇


 冒険者学校の男子寮、俺の部屋であるその場所に……訪問者、グレン・バルファートは強引に。


「入れろミオガキ、暑くてかなわん……」


 随分ずいぶんとダルそうに、オッサンは半開きの扉をつかんで、無理矢理入り込もうとする。


「ちょちょ、オッサン!?」


「なんだ?」


「なんだ?じゃねぇーって!何してんだよ、ここ学生寮だぞ!?」


 関係者以外は立ち入り禁止のはずだ、この寮は。

 なんでそんなに普通にいるんだよ!


「――おいおい、いいから部屋に上げろって、なんか飲ませろ。じゃないと話さねぇ」


「はぁ!?」


 なんだよこのオッサン……急に来て部屋に上げろって。


「はーいおじゃましまーす」


「あ、こらっ!」


 返事をするまでも無く、オッサンは強引に入り込んでいく。

 よかったマジでミーティアがいなくて。


「へぇ……まぁ綺麗じゃねぇか」


 ズカズカと入り込んで来て、部屋中を見出すオッサン。

 だ、大丈夫だよな……見られてマズい物、ないよな。


「……おいミオガキ、飲みもん」


「ぐっ……分かったよ!!持ってくるから黙って座っててくれ!」


 急ぐぞ、早く話をさせて追い返す!

 俺は急いでキッチンで飲み物を用意する……しかし、水くらいしかないんだ。

 ミーティアが居れば紅茶とか出せるんだけど、俺は何ができる?


 えっと、この道具……どう使うんだっけ?

 俺が持っているのは、氷代わりになる魔法の道具だ……冷蔵庫なんてないので、冷たい飲み物を出すのは難しい。

 この道具は容器を冷たくするもので、水分を冷やす物じゃないんだけど……入れればいいのか?


 俺が、まるで休日の何もできない駄目夫のような事をしていると、【叡智えいち】さんが。


『お手にある道具――【絶対冷やす君】に魔力を注いでください』


 おっ……これ、【絶対冷やす君】って言うの?

 絶妙にダセぇし、なんだか日本にありそうな名前だな。


「魔力を注げばいいんだな……」


 俺はその四角いキューブアイスのような小さな物に魔力を注ぐ。

 すぐに容量が満タンになるようなもので、魔力消費はほとんど無い。


「で、コップに入れる……」


 おおっ!消えた!


 【絶対冷やす君】は、魔力をはっしながらコップに浸透していき、まくのようになった。

 なるほどな……これでコップ自体を冷やすのか、便利だな。


『【クロスヴァーデン商会】がおろしている、【サディオーラス帝国】の商品です』


「え」


 まさかの自国の商品だった。

 全然知らなかったし、村にあるディンさんの雑貨屋にも無かったしな。


 そうなんだーと思いつつも、俺は冷えたコップに水を注いで持って行く。

 すると、待っていたはずのオッサンは。


「あれ……?」


 嫌な予感がした。

 ワンルームでキッチンからも見えていた筈なのに、オッサンの姿がない。

 考えられるのは……水場しかないよなぁ!!


「――まさかっ!オッサン!!」


 俺はコップを乱暴にテーブルに置いて、ダッシュ。

 向かう先は脱衣所だ。


「……おおミオガキ、お前いい趣味しゅみしてんなぁ」


「……!!」


 グレンのオッサンが持つもの……

 それは、ミーティアが今朝着替えた服であり……完全に女物の、可愛らしいパジャマだった。

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