5-81【一ヶ月まで(三週目)】



◇一ヶ月まで(三週目)◇


 本格的な夏まで――残り、二週間を切った……まだ具体的に、何をどうするかは分からないままだが……日に日に陽射しは強くなり、汗がヤバくなってきた。

 村はすこぶる涼しかったんだと、痛感しているよ。


「お。来たな」


 今日は、イリアと二人きりだ。

 ミーティアは、クラウ姉さんとその相方、ラクサーヌさんのお手伝いに行った。

 トレイダ・スタイニーとしてではなく、ミーティア・クロスヴァーデンとしてな。

 配慮はいりょありがたい……クラウ姉さんマジで出来る女。


「お待たせしましたっ……ミオ、待ちましたか?」


「いいや……今――」


 そこで、俺は止まる。


「……?」


 イリアが不思議ふしぎそうに俺を見るが……さてどうしよう。

 普通なら「いいや、今来たところだよ」と言う所なのだろうが……残念ながら、俺はミーティアと同時に寮を出たため、ここで二時間待っていたのだ。

 時間はピッタリ、イリアは遅れてなんていない。

 しかし……何というべきか、悪戯心?が出てきちまったんだなぁぁぁ!


「ミオ?」


「うっ――く、苦しい!!暑いっ……溶けてしまいそうだぁっ!」


 俺は突如苦しみ出したふりをして、うずくまる。

 さて、どう出るかなイリアさんよ。


「え、ええ!?だ、大丈夫ですかっ!」


 苦しんでいるふりをする俺の背をさすって、イリアもしゃがんで前屈みになって立ちひざに……そして、俺の視線の先には……服の隙間から見える、白い布地。


「――ぶっ!!」


「ミ、ミオぉぉ!?」


 鼻血じゃないぞ……そこまでお子ちゃまじゃない。

 吹き出しちまっただけだから、余りの無防備に。


 エルフと言うのは、高潔で清廉潔白……前世からそんなイメージがあってさ。

 身持ちが固いとか、耳年間とかさ……色々あるじゃん。

 なのにこれだよ、俺の周りの女性陣さぁ……もう少し気を使えっての。


「――ごめん」


 俺はすっくと立ち上がり、謝罪。


「な、何がでしょうっ!?え!?……体調は!?」


「それもふくめて、すいません」


 頭を下げる。

 マジでごめんね、イリア。

 悪気は……あったけど、下心は無かったから。

 それだけは信じてくれ。


「……あ、か……からかったんですねっ!?」


「うん」


 顔を赤くして、イリアはむくれる。

 いや、だからごめんって。


 長々と失礼しましたが……今日の予定は二人で魔物図書だ。

 イリアとグレンのオッサンを、会わせるんだよ。

 イリアはともかく、オッサンはイリアを知っていそうだっただろ?

 だから、確かめておかないと……直前でおかしなことにならないようにな。


「よし、じゃあ行くか」


「ちょっ……ミオ!もうっ!知りませんっ!」


 ねちゃった……どうしよう。

 え……?俺が悪い?


「ご、ごめんって……イリア、わざとじゃないんだよ……ほら、ちょっとしたジョークさ!こうやって冗談をやって、リラックス効果を出させようとしたんだって、な?」


「……そう、なんですか?」


 純粋!!この子純粋なんだけど!

 やばい、俺……かなり悪い男に見える!


『――ならしなければいいのに』


「ぐっ……」


「ミオ?」


「あはは……なんでもないよ、ほら、機嫌を直してさ……行こうぜ?」


 【叡智えいち】さん、刺さるタイミング分かって来たな。

 そうして、俺はイリアをともなって魔物図書へ向かうのだが、食事をし、ウインドウショッピングをして……魔物図書へ着いたのは夕方。

 ちょっとしたデートのような感覚に、俺はミーティアとアイシアに申し訳なくなって、何故なぜかテンションがガタ落ち……イリアが楽しそうでよかったけど。


 そして、魔物図書へ着き……キルネイリア・ヴィタールとグレン・バルファートの再会がおとずれるのだが……それは無粋ぶすいだから割愛かつあいするよ。



※無粋と言っておきながら、5章サイドストーリーでこの話をする予定です。

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