5-80【一ヶ月まで(二週目)】



◇一ヶ月まで(二週目)◇


 その日、私の弟……ミオは、ミーティアと一緒に訓練をしていた。

 私はそれをじっくりと見ていたのだけど……不意にミオが。


「あ!クラウ姉さん、頼みがあるんだけど」


「――なに?」


 動きながら、ミオは簡単そうにミーティアからの弓矢をけて言う。

 なんとなくだけど、ミーティアがかわいそうだわ。


「今日さ、この後イリアと一緒に【たかの眼】に行く予定だったんだけど、訓練もしなきゃだし……」


 ああ……もう言いたいことが分かった。


「嫌って言っても行かせるんでしょ?」


 意外とこう言う、強引な所もあるのよね……この子。


「あははっ!そういう事、代わりに頼むよっっと!」


 ミオは足にまとった光で空を駆けていく。

 何というか、非常にテンポがいい。

 ミーティアが空に向けて矢をるが、足の裏の光ではじく。


「――あっ!ズルい!!」


 うん。私もこれはズルいと思った。


「ズルくないっ!だったら別の場所狙えって!」


 ミオは空中走破の速度を上げる。

 本当に地面を走っているように走るわね。


「このっ……!」


 お?ミーティアが少し怒った?

 いいわよ、もっと怒りなさい。


 ミーティアは矢をつがえたまま走る。

 空中を走るミオに並走するように動き、そのまま矢を一本、二本とっていく。


「当たんねぇって!」


 ミオはける。

 二本の矢は上空に上がって行った。


「……なるほど」


 ミオには見えていないのだろうけど、外から見てれば狙いが分かるわ。

 ミーティアもなかなかやるじゃない。


「これならっ!」


 ミーティアは更に矢をつがえる。

 得物えものである【魔導弓マギアロー】に魔力を籠め、籠める籠める籠める。


「……」


 ミオはその動作をどう思っているのだろう。

 魔力が籠められて、弓の本体からは青い光が漏れている。

 矢に、つるに、光が纏われて……その光はまるで……流星ミーティアのようだと思った。


「行ってっ!!――【青い星ブルースター】!」


 魔法だ……初めて見る、ミーティアの魔法。

 放たれた矢は、一筋の軌跡となってミオに迫る。


「――速いっ!」


 目に見えたのがうそのように、その青い光は一瞬でミオの……横を通過した。


「は、外した!?」


 ミオがおどろく……だけど、違う。

 私には丸見えの、第一射と二射が……上空に残っているのだから。


 問題は、ミオが気付くかどうか。

 このまま行けば……肩付近に直撃。

 訓練用のやじりが柔らかいタイプとは言え、当たれば痛いはずだ。


 完全に死角、けたと油断もしている事でしょうね……ミオ。


「へっへ……当たん――!!?」


 気付いた……でも、遅い。

 ミーティアの狙いは、初めから空撃ちのその二本の矢だったのよ。

 魔法をおとりにしてまで、ミオに一矢報いたのだわ……文字通りね。


 私の中でも……当たる。

 そう確信した時だった。

 ミオの身体に、異変が起きたのは。


「――なっ!!」

うそっ!?」


 私は立ち上がり、ミーティアは上空を見上げながらおどろく。

 言葉を失うほど、それほどの事が起きたのだ。


 ミオが……加速したのだ。

 空中で、停止してミーティアを見下ろしていたミオが……それこそ【青い星ブルースター】のように、超加速をして……降ってきた二本の矢をけたのだった。





 私は訓練場を出る……気になり過ぎる、ミオのアレ・・絶対おかしい。

 何かあるはずなのに、それを追及できないまま……私はキルネイリアとの約束(代行)に行かなければならない。


「くっ……ミオめ」


 私は爪を嚙むほどに気になっていたが、ミーティアに「絶対に聞き出しなさい!」と言いつけて出てきたのだが、ちゃんと聞き出せるだろうか。


「何だったの、あの動き……真後ろに、スライドした?」


 ミオは不自然なほどの動きを行って、肩にぶつかる直前の二本の矢を避けたのだ。

 人には無理な動きだ。

 ましてや空中、しかも完全に停止していた……謎過ぎる。


「あんな魔法、使えなかったわよね?いやいや……魔法?あれは動作だわ、魔法じゃない」


 私は一人かぶりを振って歩く。

 ブツブツと疑問をつぶやきながら、目的地へと向かっていたのだが。


「――何を一人で言っているのですか?……クラウ」


「はっ……!」


 声が掛けられて、私は立ち止まる。

 いつの間にか、目的地……【たかの眼】に着いていた。

 そして目の前には……キルネイリア・ヴィタールが少し怪しいものを見る目で見ていたのだ、私を。


「……お待たせ、本日の代行……クラウです」


「い、いえ……存じていますが」


 恥ずかしさもあったけど、とにかく……キルネイリアが購入する物を受け取りに行きましょうか。

 ミオには代金も貰ってある事だし、おつりでお茶でも飲んでって言われたしね。

 そうして、私とイリアは【たかの眼】に入り……ミオが頼んでいたアクセサリーを受け取るのだった。



※5章サイドストーリーにて、この【たかの眼】での話をする予定です。

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