5-82【一ヶ月まで(四週目)】



◇一ヶ月まで(四週目)◇


 俺とミーティアの一週間。

 クラウ姉さんとイリアの一週間。

 イリアとグレンのオッサンの一週間。


 その他にも、各々おのおのがそれぞれの日にちを過ごした事だろう。


「はぁ……ひまだな」


 俺は現在、寮で一人……お留守番だ。

 ミーティアはクラウ姉さんとイリア……女子三人でお出かけですよ。

 なんか……水がどうとか言ってたけど、なんだろうな?


 でもってだ……俺は、クラウ姉さんには絶対に怪しまれている。現在進行形でな。


 ミーティアとの訓練時に見せた……新しい能力の発現、そのせいだな。

 あの時俺は、上空から降って来た完全死角の矢を、有り得ない動きをしてけたのだ。

 初めて見たミーティアの魔法……それに気を取られて、先に矢をられていた事をすっかり忘れていた俺は、上には注意していなかったんだ。

 その結果……俺の肩には上から矢が直撃するはずだった。

 俺もそう思っていたし、クラウ姉さんもミーティアも確信していた筈だ。


 しかし、俺は有り得ない軌道きどうをして……空中でスライドしたんだ。

 まるでホバリングだ、勿論もちろん……そんな能力はない。

 しかも視線はミーティアを見ていたし、降ってくる矢の気配も気付かなかったよ。

 なら何故なぜ……俺が矢をけられたかと言うと。


「ウィズ……説明」


『――あのままでは、ご主人様が恥ずかしい思いをするのが明白でした。なので……勝手ですが解析完了していた能力を発動させたまでです』


 そういうことです。

 俺が攻撃を受ける事が何故なぜ恥ずかしいのだろうか。

 ミーティアだって頑張ってるんだし、たまには俺だって練習台になるくらいはするっての。


駄目だめです』


「いやなんでだよ!?」


 なんでお前が判断してんの!?


 俺は一人と言う立場をいい事に、【叡智えいち】さんに口頭ツッコミをする。

 しかし、その能力さんは。


『ご主人様は強くあるべきなのです……それが――』


「それが……?」


『いえ……何でもありません』


 おい、説明しろよ。

 なんでこういう時だけ明確に言わないんですかね、ハッキリしてください。


『……』


 こ、こいつ……だんまり決めやがった。


 まぁなんにせよ、俺は新たな力を解放した……それがなんなのかは、実戦でのお楽しみってとこだな。

 ちなみにあの時は、ミーティアに「殺気を感じたからだよ」……と苦しい言い訳をしたのだが、それは多分信じてないと思う。

 ミーティアはクラウ姉さんにも同じ事をつたえているはずだけど、この三週間の視線が痛すぎた。


『――入口付近に生体反応……お客様です』


「は?」


 ウィズのセンサー報告と同時に、ドンドン――と、部屋の扉が乱暴に叩かれる。


「珍しいな……寮母さんか?」


 入学してから初めてだな。

 普段は全然干渉かんしょうしてこないが、寮には管理してくれる寮母さんが居る。

 掃除なんかをしてくれているらしいが、そういえば見た事ないかも。


「よっと」


 俺は応対に向かう。

 あれ……でも、確か寮母さんは女性だったはず。

 あんなに乱暴に扉叩くか?

 怒らせたのなら分かるのだが……俺なんかしたっけ?


 ドンドンドンドン――!!

 ガチャガチャッ――!!


「ちょっ……まっ」


 取り立てですか!?怖いんだが!

 つーか開けようとしてんじゃねぇか!!


 急いで、俺は扉を開ける。

 しかし一人でよかったな……変身してないミーティアが居たりなんかしたら、地獄だっつの。


 扉を開け、俺は顔をのぞかせる。


「――なんですか……って」


 若干の恐怖で、ひょっこりさせていた俺だが……外にいた人物におどろく。

 何故なぜならば……その人物は。


「ようミオガキ……」


 朱殷色しゅあんいろの髪に、不機嫌そうな態度。

 そのオッサン・・・・は汗だくで扉のはしつかみ、強引に扉を全開にする。


「――ちょっ!!グ、グレンのオッサン!?」


 そう……訪問者は、グレン・バルファート。

 魔物図書の主であり、A級冒険者……【アルキレシィ】の依頼を出してくれるはずの、オッサンだった。



※5章サイドストーリーにて、女子会の話をする予定です。

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