5-79【一ヶ月まで(一週目)】



◇一ヶ月まで(一週目)◇


 翌日から、想定している【ハバン洞穴】への依頼までの道のりが始まった。

 残りの四週の始め……俺はその日、イリアとロッド先輩に報告をしに行った。


 今日はイリアはロッド先輩の所にいるらしいので、先輩の部屋に俺が行くと、メイド姿のイリアが掃除をしていたんだ。

 俺の訪問に、先輩もおどろいていたが……事情を話すと室内へあげてくれた。


 そして二人に、昨日魔物図書であった事のあらましをべたのだが……


「……そう、ですか」


 イリアは拳をにぎって、緊張した様子で俺の話を聞いていた。

 ロッド先輩はそんなイリアに。


「今から緊張をしてどうする、落ち着けキルネイリア」


「は、はい……坊ちゃん」


 今日はメイドの日らしいイリアだが、なんか久しぶりだな。

 初対面がこの格好だったせいか、今でもイメージはあるな。


 でもって、ロッド先輩は流石さすがに余裕があるみたいで助かる。


「それで、どうですか?ロッド先輩……依頼、受けて頂けませんか?」


 イリアには【アルキレシィ】の事を、ロッド先輩には……その依頼を受けてくれないかとの相談だ。


「ああ、無論受けよう……俺が受ければ、こいつキルネイリアも連れて行けるだろうしな」


 言わなくても理解してくれてて助かるよ。


「感謝します、先輩」


 俺は頭を下げる。

 ロッド先輩は「お前に頭を下げられるためじゃない」と言うが、この人まさか男のツンデレか?


「ありがとうございます!坊ちゃんっ」


「気にするな……俺の勝手だからな」


 イリアには素直かよ。

 初めからそうであれよ、坊ちゃん。


「はいっ!」


 まぁしかし、そういう事だ。

 依頼を受けられるのは二年生と三年生だけ……一年はそのサポートのみだ。

 二人一組な以上、例外はあれど俺と……トレイダとしてのミーティア。

 クラウ姉さんは援軍あつかいになるんだろうけど、イリアは別だからな……彼女は基本的にソロ、個人で依頼サポートを受けられないんだ。

 この前は俺が相棒代わりをしたが、そう言った形でしか……イリアは参加できない。


 イリアの笑顔の返事に、ロッド先輩は言う。


「か、構わん。俺の務めだからな……しかし、そう考えればあの一年は異常だな。一人でもサポートを受けられるのだろう?」


「――え?」


 イリアが首をかしげる。

 ロッド先輩が言うあの一年……って言うのは、おそらくユキナリ・フドウの事だろう。

 あいつもイリアと同じでソロだ……だけど、実力は本物。

 あいつは個人的な依頼サポートを受けているらしく、なにかしら勝手をやっているが、現状おとがめがない。


 先輩の言葉に、俺が。


「ユキナリ・フドウの事っすね。あいつ……うわさでは、直談判したらしいですよ、学校側に」


「依頼サポートを個人で受けさせてくれ……と、か?」


 そういう事だろうな。

 相棒が居ないから、個人で依頼サポートを受けさせてくれと、直接学校側と交渉したんだろう……しかし、それでこの現状なんだ。

 結果はおのずと出ている。


 腕を組み、ロッド先輩は思い返すように言う。


「俺も一度サポートを頼んだが……自由気ままな猫のような男だった」


「そうなんですか?」


 イリアが言う。それを知らないって事は、メイドとして働いていない時って事か。


「ああ。ふんっ……だから一点をくれてやったぞ」


「えぇ……」


 ブフッ――!

 ドヤ顔で言わないでくれよ、ロッド先輩!


「ははは……俺等もやられましたしね」


 もはやなつかしい。

 俺とトレイダも、この人のサポート一点だったもんな。


 完全にまともになったかと思ったけど、まだそんな一面あるんだな、この先輩。

 はっはっはと笑う先輩だが、おちゃめでは済まされないんだぞ、一年からすれば。


「――言うな。あの時は俺も、こいつの事で頭がいっぱいだったんだからな、大目に見ろ……スクルーズ」


 後ろにひかえるイリアを親指で指して、ロッド先輩は悪びれずに言う。

 それだけ、イリアを思う気持ちは本物だったと言う訳か。

 それでも今は、こうして協力してくれているんだ、何があるかなんて分かんねぇよな。


「別にいーっすよ。そのおかげとは言い難いっすけど、俺も色々と覚悟を決められたんで」


「……そうか、感謝する」


 先輩はフッ――と笑いながら席を立ち、俺に頭を下げた。


「先輩……」

「坊ちゃん……」


 この人、心配性な不器用さんだ。

 だけど、イリアの味方になってくれるのならそれでいい。

 絶対的に、味方は必要なんだからな……今後の為に。


 こうして、昨日の話の説明を終えた俺は部屋に戻り。

 またミーティアの空元気からげんきを見る事になる。

 実に一週間……このなんとなく気まずい時間が続くのだが、それはまた別の話だ。

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