5-78【空元気】



空元気からげんき


 その日……俺とクラウ姉さんはグレンのオッサンからの言葉を受けて、魔物図書を後にした。

 特に予定も無かったが、考える事だけは多くある。

 それをクラウ姉さんも理解してくれているからか、どこかへ寄ろうなどというお遊びも無いまま、そのまま寮へ帰った。


 クラウ姉さんを女子寮に送り届けると言うなんともイケメンムーブをかましつつ、俺も寮へ戻る。

 自分一人だけだったなら、ミーティアの様子を見にいけたんだが……なんとなくクラウ姉さんが一緒だと嫌だったんだよ、からかわれそうでさ。

 それに時間も昼を過ぎていたし、もしかしたら寮に帰っている可能性だってあるだろ?


『――室内に生体反応があります』


「うおっ!……きゅ、急だなウィズ……って、やべ」


 自室のドアノブに手を掛けた瞬間の【叡智えいち】さんの声に、俺はつい言葉に出しておどろいていしまう。

 キョロキョロと辺りを見渡して、誰もいない事を確認すると。


『誰も周囲にいない事を確認してからのお声がけです。ご主人様が叫ぶのを想定しまして』


「ぐっ……いきなりなんだよ。しかも生体反応って……その言い方怖えんだが!?」


 まるで部屋に人間じゃない何かがいるみたいじゃないか……やめてくれよ、俺はホラーとか苦手なんだから。


『意味不明ですが。生命の反応体……生体反応のどこが怖いのでしょう』


 だって……あ~いや、いいや別に。

 それに、部屋の中から反応があるってことは。

 俺はウィズに答えるまでも無く、扉を開ける。


「――ミーティアっ」


 帰って来たんだ。

 よかった……マジで安心したよ。


 俺は室内に入ると、すぐに玄関、そしてキッチンを見渡す……が、いない。


『浴室と思われます』


 風呂……か。

 さ、流石さすがに突撃する訳にはいかないな。


「でもそっか、ちゃんと帰って来てくれた……」


 それだけでも、内心かなりホッとした。

 俺がベッドに座り、一息くと……そのタイミングで。


 ガチャリ――と。


「……あ、ミオ!おかえりなさいっ!」


 明るい笑顔で、俺に声を掛ける青髪の少女。


「ミーティア、ただいま……あと、ミーティアもおかえり」


「えへへ……ただいま!」


 ん……?なんだ、この感じ。


 笑顔を見せてくれるミーティアだったけど、なんだか……変な違和感が。

 無理に笑ってないか?まるで、あれだ……空元気からげんきっていうか。

 俺に見せたくない何かがあるかのような、うわべだけの笑顔のような。


「……えっと、風呂だったの?」


「ううん、お掃除よ。水回りの掃除はキチンとしないとねっ」


 むんっ――と腕捲うでまくりをして、力こぶを見せる。

 いやまぁ……無いんだけどさ。


 しかし、これはあれだ……昨日の事を聞きづらいな。

 まるでバリアでも張っているかのような空気だ。


「そっか、え~っと……手伝う?」


 とにかく、会話だけは途切れない様にしないと。

 寮内の風呂は滅茶苦茶せまいから、二人は入れないんだけど。


「平気よっ、私も運動しないとね。だから、ミオはゆっくりしていてね」


 断られた……これ以上はダメだな。

 深入りするなって、警戒けいかいされているようにも感じる。


「……うん。分かったよ」


 そうして小一時間……俺はベッドの上で待機していた。

 ミーティアは、初めこそ鼻歌交じりで風呂場の掃除をしていたが、徐々に静かになり……やはり、元気に見せていただけだったんだと……俺はさっした。

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