5-77【向かう先は地獄だと思え】



◇向かう先は地獄だと思え◇


 【ステラダ】近郊きんこう冷窟れいくつ――【ハバン洞穴】。

 せまいその洞窟の中、そこに多人数で入れる数は、精々五~六人が最大らしい。

 俺はクラウ姉さんを含む数人の頭数を計算出来ていたが……その最後の一人に名乗り出たのは、依頼を出してくれるであろう張本人……グレン・バルファートだった。


「オッサン……反対してたんじゃないのか?」


 カウンター席から立ち上がり、オッサンは俺とクラウ姉さんを交互に見て言う。


「実力がない奴らを行かせるのはな……だが、俺が出した依頼をミオガキはこなして見せた……結構、無理難題を出したんだぞ?」


「え……そ、そうだったのか?」


 知らなかったな……あ~でも、そう言えば依頼を何度か受けてくれた、レイナ・ハブスン先輩も、初めは顔を青くしてたな。

 緊張とかそんなだと思ってたけど、あれって難易度が高かったからなのか……悪い事をしたな。


 オッサンは続ける。


「――失敗もあったが、そこは関係ない……帰ってくることが最重要。生きる事こそが、成功体験になるんだからな」


 成功体験……自信をつけさせる事で、弱者でも強者に勝てるようになる……と言うやつだったかな。

 生きることが重要……よく分かるよ。

 生きてさえいれば、何度だって可能性はある……だからイリアだって、こうしてチャンスを得たんだからな。


「でもオッサン……依頼者のあんたがメンバーにいたって、内容には手出しできないんだろ?」


 そうだったはずだ。実際に、以前レイナ先輩とグレンのオッサンの依頼を受けた時、オッサンも帯同していたが、馬車の御者をしていただけだ。

 助言は受けたけどさ。


 そんな俺の疑問を、オッサンは笑って言う。


「あっはっは!!そんなもん、バレなきゃいいんだよ!……俺だって一応は冒険者の端くれだ、若いお前らを……みすみす死なせるわけにはいかねぇのさ」


 元も子もねぇよ……でも、すげぇ有り難い。

 A級冒険者であるオッサンは、実力だってあるはずだもんな。

 最悪、イリアやミーティアを守って貰える。


「オッサンがそう言うなら、頼むよ……クラウ姉さんも、それでいいかな?」


「おう。任せろ」


「ええ、問題ないわ……私はミオに合わせる」


 クラウ姉さんらしいな。

 今回の件は、極力口を出さないつもりなのだろう。

 イリアがメインでもあるし、主導で動いてるのは俺だ。

 自分の事もあるのに、こうして手伝ってくれるんだからな……感謝だ。


「うん、助かるよ」


 俺は二人に強くうなずいて、感謝を示す。


 こうして、約一ヶ月後の予定が決まったんだ……【ハバン洞穴】に向かうメンバーは、【アルキレシィ】をかたきとするキルネイリア・ヴィタール。

 それを補助する、俺、クラウ姉さん、そしてミーティア。


 そもそもの依頼を受けてくれる先輩の誰か、これは……レイナ・ハブスン先輩かロッド・クレザース先輩に頼んでみようと思う。

 そして最後に、依頼を出してくれる……グレンのオッサンだ。

 この六人で、来たるべき時を迎えるんだ。


「よっし決まりだ。オレは、そうだな……“【ハバン洞穴】の調査”って名目で依頼を出す。こればかりは、あからさまに【アルキレシィ】討伐は口に出せねぇからな」


 オッサンはそう言う。

 確かに、そんな直接的な依頼は受理されないだろう。

 調査と言う事なら、研究者がよく出しているのを見かけるし、そっちの方が怪しまれないで依頼を受けて行けるはずだ。


「分かった」

「ええ」


「よっし、じゃあもう帰れ……これから俺は【ギルド】に行くからな。申請は早い方がいい……変なタイミングで依頼を出しておけば、【ギルド】の連中も【アルキレシィ】関連だとは思わねぇだろうからな」


「あ、ああ……」


 早速行動してくれるらしいオッサン。


 俺とクラウ姉さんはその言葉を承諾しょうだくし、その日は帰ることにしたのだが……帰り際、オッサンは言う。


「おいミオガキ……覚えておけよ。向かう先……【ハバン洞穴】は地獄だと思え。行っても地獄、戻っても地獄……これからそこへ向けて、準備をするんだからな」


 その言葉を、真剣な顔つきで言うオッサンに……俺は無言でうなずく事しか出来なかった。

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