5-76【魔物図書での吉報5】



◇魔物図書での吉報きっぽう5◇


 残された時間は、あっと言う間に過ぎていくはずだ。

 亜獣――【アルキレシィ】……イリアの両親のかたきであるそいつと邂逅かいこうする時まで、残り一ヶ月も無い……それが事実だ。


 グレンのオッサンは言う。


「で、お前らの戦力はどうなってる?言っておくが、【ハバン洞穴】は滅茶苦茶せまい……大人数での大規模部隊なんざ、入れないぞ」


「――何人くらいなら?」


「そうだな……精々、五~六人ってところだろうな」


 オッサンの言葉に、俺は腕を組んで考える。


 五~六人か……俺とイリア、ミーティア、そして依頼を受けてくれるであろう先輩一人で四人だ……残り一人か二人だけど。


 ちょんちょん――


「……え?」


 俺の隣の小さい人……クラウ姉さんが、指先で俺の頬をつついていた……物凄い笑顔で。

 なにそれ、こんな時にいたずらは……と、俺は思ったのだが。


「――ねぇ、私を入れてないでしょ?」


 その言葉は、予想外を超えていた。


「は……え?クラウ姉さん、手伝ってくれんの!?」


 確かに……思った事もあるよ、この人を頭数に入れる事が出来れば、どれだけ楽になるか……と。

 だけど、頼みはしてなかったんだ。

 クラウ姉さんにも都合があるし、危険だってある。


 危険と言う理由を持ち出せば、ミーティアだってそうだろうと言われるかもしれないが……相棒と言う以上、ミーティアはきっと何を言っても手伝ってくれるだろう。

 だけど、クラウ姉さんにまでそう言う対応は出来ないと思っていたんだよ。


 しかし、本人からの申し出……これほど頼りになる人もいないぞ、マジで。


「当たり前でしょ、私だって……もうキルネイリアの友人なのよ?」


 胸を張るクラウ姉さん。

 さっきと違って、不思議ふしぎと大きく見えるよ!なんでだろうね!


「そうかも知れないけどさ……いいの?」


 クラウ姉さんは更に胸を張って言う。

 少し調子に乗ってません?


「当然よ。お姉ちゃんにまかせなさいっ」


 【アルキレシィ】相手でも戦えると言う自信なのか、それとも俺の保護者目線なのか……なんにせよ、クラウ姉さんが積極的に関わってくれることはありがたい。


 これは、もう一つの吉報きっぽうだな。

 戦力には充分すぎる実力者だ。

 そしてそれは、グレンのオッサンも同意見だったようで。


「ミオガキの姉ちゃんなら……まぁ心配はいらねぇな」


 俺の実力を多少は知っているオッサンが、クラウ姉さんも同じくらいの実力だと思ったのか、安心しながら言う。

 言っておくけど……積極性だけで言えば、この人は俺を遥かに凌駕りょうがしてるぞ。

 なんたって転生者だ……しかも、実力を隠し通そうとしている俺とは違う。

 この人は、目的の為なら実力を出す事を惜しまないタイプだからな。


「そういうことで、じゃあ……私とミオ、キルネイリアにミーティア、依頼を受ける先輩の誰か、あともう一人くらい行けるわね……ラクサーヌでも誘ってみる?」


「おおっ!」


 俺は喜々とする。

 クラウ姉さんの相棒、ラクサーヌ・コンラッドさんか……俺が知る唯一の魔族の女性だ。

 それはそれで有難く、俺がその提案を願い出ようとしたのだが……グレンのオッサンが、その前に言葉をべる。


「――いや、残りの一枠なら……俺だ」


 と、ふくみある言い方をする。


「え、オッサン?」

「へぇ……」


 最後の一人として名乗り出たのは、依頼を出す予定の本人。

 グレン・バルファート……この魔物図書の主であり。

 一応、肩書的にはA級冒険者……そんな男だった。

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