5-75【魔物図書での吉報4】



◇魔物図書での吉報きっぽう4◇


 亜獣……それは、魔物が特殊な条件をて進化した姿だ。

 俺たちが情報を求める魔物――【アルキレシィ】も……その亜獣にふくまれる存在だと言う。


「これって、【アルキレシィ】の……観察報告書?」


「そうだ。ついこの前のな……」


 たった一枚の紙だが、これほど求めた物はないと言うほど……俺は正直、興奮こうふんを覚えていた。


「……読むよ」


 クラウ姉さんにもつたわるように、口頭で。


「【ステラダ】近郊きんこう……【ハバン洞穴】にて、対象の姿を確認。やはり情報通り、夏に近付くにつれて行動を弱める模様もよう……ここ数年は、洞穴内にて他の魔物を捕食し、永らえていたと思われる。前回の報告よりも、さらに大きくなってはいるが……動きはにぶい」


 これは、A級冒険者かなんかの報告なのだろうか。

 観察報告は非常に重要だし、ありがたい事だが。

 これが事実なら……【アルキレシィ】は相当デカいのでは?


「続けて?」


 クラウ姉さんに言われて、俺はゆっくりとうなずいて続ける。


「――【ハバン洞穴】が年中涼しい事を考えると、やはり【アルキレシィ】は暑さに弱いと推測できる。洞穴入り口は封鎖ふうさされているが、出てこれないほどではないからだ」


 なるほど、暑くて出たくないってか。

 随分ずいぶんと舐めた魔物だな……この野郎。


「事件から数年……他の魔物を喰らっている事を考えれば、当時より強力だとも考えられるが、時期と戦力を考慮こうりょすれば……撃退も考え得る……!!」


 最後の方には感情が籠ってしまったが、これは吉報きっぽうだ。


「……【アルキレシィ】。キルネイリアが探す魔物で、ご両親のかたき……だったわね」


 クラウ姉さんは顎先あごさきに指をあてて何かを考えているが、もっと喜んで欲しかった。

 でもって……グレンのオッサンが補足するように言う。


「正確には亜獣な。進化した魔物の事だ……【アルキレシィ】は、魔力の豊富なエルフ――クレザース家長男のご夫人を喰った事で進化し……凶暴性を増したんだ。当時の冒険者は、【ステラダ】に対処できる上級者がいなかった事もふくめて、【アルキレシィ】を追い払う事しか出来なかったんだ……その逃げた先が【ハバン洞穴】だな。今は封鎖ふうさされて立ち入り禁止だが……なんとか高額依頼で観察報告を頼んだんだ。でも……成果はあったな」


 オッサンも、金を出してまで調べてたんじゃねぇかよ。

 もしかして、そのせいで金欠だったのか?


 でも、これで。


「ああ!これで……前に進めるっ」


 後は俺たち次第……という事だろう。

 【アルキレシィ】が夏に弱まると言う理由も、夏までに強くなれと言ったグレンのオッサンの配慮はいりょだったんだ。

 少しでも勝算があれば、高難易度として依頼を出しやすくなるからな。


「――だが、依頼はまだ出せねぇ」


 グレンのオッサンは言う。

 おい、折角出たやる気を返せよ!


「……は?」


 俺はてっきり、もう出してくれるもんだと思ってたんだが!?

 どう言う事だって言うんだ、説明しろオッサン。


「――おい。そうにらむなって……ミオガキ。夏の本番はいつだ?」


 あっ……ああ、そういうことか。

 これは俺の早合点だ……こう言う所だな、俺もまだまだだ。

 理不尽にすらんですまんな、オッサン。


「七月から八月……って所だろ?」


「そう。そう言うこった、せめて七月の半ば……最大限に暑くなる時期が好ましいだろうな。だが……あと一ヶ月も無いぞ?準備はいいのか?」


 俺は大丈夫だ……だけど、肝心なのはイリアか。

 一ヶ月もあれば装備は整えられるだろうが、問題は練度れんど……簡単に言えば、イリアのレベルだという事だな。

 つまり、残りの時間……成長に充てろと、そう言いたいんだろ、オッサン。

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