5-72【魔物図書での吉報1】



◇魔物図書での吉報きっぽう1◇


 予期せぬクラウ姉さんの待ち伏せに、俺は少々の混乱をかかえながらも歩く。

 向かう場所は、【ステラダ】の魔物図書館……A級冒険者グレン・バルファートが経営する、魔物の情報を得る事が出来る専門の書庫だ。


 気がかりである相棒、ミーティアの事もあるが。

 今はキルネイリア・ヴィタール……イリアの両親のかたきである魔物、【アルキレシィ】の情報がそろそろ欲しい。


 グレンのオッサンが言うには、『夏までに強くなれ』……という言葉だった。

 時期はもうすぐ夏……言われた通りに、俺は自分を強くする事、それからキルネイリアを強くすることを念頭ねんとうに置いて、時間を進めたつもりだよ。


 俺が【叡智えいち】という能力を解放して、イリアには装備と……【念動ねんどう】という能力を与えたんだ。

 まだ装備は不完全だが、それもその内そろう……だから、次は情報だ。


「これからどこに行くんだっけ?」


 小さな姉と二人で歩く。

 まるでデート……ではなく、迷子を案内している気分だが。


「魔物図書だよ。姉さんは行った事ないの?」


「……。……ない」


 え、なにその間。

 おっと、視線らしたなぁ……別に隠す事じゃないだろ?


「なんで向こう向くのさ」


「別に。お腹いたなぁって」


 早朝だし、確かにいたけどもさ。

 その態度、明らかに不自然だって……クラウ姉さん。


 でも、まぁいいや。

 俺は格別気にする事なく言う。


「それじゃあ……軽く何か食べてから行こうか」


「そうね」


 俺とクラウ姉さんは、自然な流れ?で露店に向かう。

 そう、自然な流れで……【クロスヴァーデン商会】が仲介ちゅうかいする露店に向かうのだ。


 ふふふ……完璧な流れだ。


『……クラウお姉さまの視線があちらに向かわなければ、気付く事は無かったと思われますが』


 ウィズ、言うなよ……むなしくなるから。

 ともかく、腹減りは事実だ。何か食おうぜ?


「いい匂いね。野菜もあるかしら……あ、ミオのおごりよね?」


 思い出したかのように言わんでくれ。

 いやまぁ、おごるけどもさ。


「うん。この匂いは……串焼きかな?」


 露店からはこうばしい香りがただよって来ていたが、朝から串焼きですか?ちょっと重くありませんかね?

 身体は十代の青少年でも、心は胃の重たいおっさんなんで……どうも進まん。


「そうみたいね。えっと……小さな鳥の、丸焼き?絶対食べれないわね……」


 ベジタリアンの姉さんはともかく、言葉だけで聞いてもすげぇ食いたくない。

 でも、どこかの国には蝙蝠こうもりの姿焼きなんかもあるらしいし……異世界なら珍しくは無いのかな?


 一緒にすんなって?俺もそう思うけどさ……ネズミか鳥かで戦争が起こるぞ。


「よかった……変な鳥じゃないわね。野菜もあるし」


 クラウ姉さんが、露店の商品を確認して言う。


 俺もそう思うよ。

 串に刺さったのは、処理がされた普通に鳥だった。

 ローストチキンの小さいバージョンだな。


「すいません、二本ください……」


「いや一本で、私は野菜のを」


 意地悪したら速攻で回避された。


「いらっしゃい……鳥一本野菜一本、少々お待ちを」


「「ん?」」


 俺とクラウ姉さんは、同じ顔をして店主の声を聞いていた。

 あれ……なんだ、この声。

 低く、響く声だ……いわゆるイケボに分類される。

 その声に、どうやらクラウ姉さんも聞き覚えがあるようで、だから俺と同じ顔をしてるんだろうけど。


「……どうぞ。【マルッサ鳥の丸焼き】と【夏ボォムの串焼き】だ」


 店主が、焼き上がったそれを俺たちに渡そうと手を向ける。

 俺は何となく……顔が隠れている暖簾のれんを手で除ける。


 すると、そこには。


「「――ジェイル!?」」


 露店で串焼きを売っていたのは、ジルさんの兄にして……【リードンセルク王国】の元・騎士団長……ジェイル・グランシャリオだったのだ。

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