5-66【未来への約束】



◇未来への約束◇


 父にとっては、権力のある貴族のもとに嫁入りさせられるのなら、誰でもよかったに違いない。

 その中で、古くからの知人である……アリベルディ・ライグザール大臣閣下。

 そしてその息子であるアレックスさんは、色恋沙汰に興味きょうみのない仕事人間だった。


 つまり、見合いの話を受け流さずに……簡単に受け入れてくれる可能性が高かったんだ。

 アレックスさんからすれば、面倒事の一部だったのだろうけど、お父上の持って来た話である以上、無下には出来ない。

 だから、勝手に話を進められたことも……とがめる気は無いのだろう。

 それどころか、アレックスさんは未来の伴侶はんりょを、事務的にでも作ろうと言うのだ。


 それが――私だ。

 好きでもなく、興味きょうみすら持ってはいない。

 今後、他の“そういう話”を持ってこれなくするために、私との見合いを承諾しょうだくしたんだ。

 言ってしまえば、私は……妻という名の交渉道具カードなのだ。


 アレックスさんが私に興味きょうみを示さない事はありがたい。

 女としてはさみしい点があるけれど、恋する乙女としては感謝したいくらいだ。

 ここからうまく立ち回れば、未来の自分を助ける事ができる。


「でも、今日は面白かったですよ。曲がりなりにも見合い相手……一度お顔を見れて、私も少しは楽になれましたからね。誰でもよかったと言ってしまえば、聞こえが悪いですが……ミーティアさんでよかったです」


「そ……それは、よかったですけど」


 時間も、そろそろいい時間だ。

 私に一切の興味きょうみが無いお見合い相手……アレックス・ライグザールさん。

 今後、きっとまた会う機会があると思う。

 その時までに、私はミオと……す、好き同士になれるだろうか。


「……二年は、あっと言う間ですよ……ミーティアさん」


「そう、ですよね……分かります。でも、私は……」


 まるで、死神からの宣告のようだ。

 更に、追い打ちを掛けるようにアレックスさんが言う。


「う~ん。そこまで貴女あなたに思われているミオ君……私は逆に、そちらに興味きょうみがありますね。ミーティアさんのような素敵なお嬢さんに言い寄られて、三年も何もなし……なのでしょう?」


 グサッ――


「――う!……別に、い……言い寄ってなんかいませんからっ!」


 あぁ……こう言う所が小娘なんだ。

 感情が制御できない。

 図星を言われて、恥ずかしさと変な意地で……声を荒げてしまう。


「ふふふ、そうなんですか?」


 アレックスさんは笑いながら言う。

 ああ……多分からかって遊んでいるんだ。


 ミオにも事情があるのだから、私が強引に既成事実を作る訳にも行かない。

 そんな事をしたら、それこそ嫌われちゃう。

 アレックスさんの言う「そうなんですか?」が……事実を突きつけられた気がして、無性に恥ずかしかった。


「私は、アレックスさんと違って本気で恋をしています……」


「……ほう」


 なにを言っているんだろう、私は。


「好きでもない人と結婚をしたいだなんて、微塵みじんも思っていません」


 こんな事を言ったら、お父様の考えをぶち壊しているのも同義。


「それでも、約束は守ります……私は、二年後……」


 未来に何が起こるかなんて、誰にも分からない。


「恋が叶わなかったら……アレックスさん、貴方あなたと……」


 決して、自棄やけになった訳ではない。


「――結婚します」


 それでも、これは未来の自分との約束だから。

 私は、自分自身と戦うんだ……自分の未来を、つかみ取る為に。

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