5-65【引く気はないけど】



◇引く気はないけど◇


 アレックスさんは、私の事を好きだからお見合いをした訳ではない。

 お父上……ライグザール大臣閣下から持ってこられた話だから、断ることも出来ない。という事が、最大の理由らしい。


 それでもこの見合いを受ける。

 と言うのも……私にとっては困った悩みになりそうだ。

 せめてアレックスさんが断ってくれれば……と言うのも、無理な話なのだろうけど。


「――それにしても、いいものですね。恋というのも」


 アレックスさんが言う。

 何とも言えない優しげな顔で、私を見ながら。


「え……も、もしかして私の事ですか?」


 恋とか愛とか……興味きょうみないのでは?


「ええまぁ。冒険者学校に通っていると聞いた時は……正直言って爆しょ――いえ、おどろきましたよ」


 爆笑って言おうとしましたね?

 でも、意外とユーモアのある人……なのかしら。


「全部聞いているんですね……私の事」


「当然です。情報を得るのも、騎士として当然ですよ。と言っても、話したのは父とダンドルフ殿で、私は何もしてませんけどね……あはは」


 両手を上げて、わざとらしく笑うアレックスさん。

 なるほど……私の情報を提供したのは、お父様とライグザール大臣閣下か。

 と、なると……ミオの事も。


「じゃあ、その……私のこ、恋する相手の事も……?」


 アレックスさんは頭を下げる。


「――すみません。聞く気はなかったのですが……二人が私の居る場で勝手に話すので、耳に入ってしまい」


「い、いえ……顔をお上げください」


 お父様が私を嫁に出したいのは分かる。

 【クロスヴァーデン商会】をもっと大きくするため、貴族の方に嫁入りするという事は、言ってしまえば産まれた時から決まっていたことかもしれない。

 でも、大臣閣下は……?


 息子であるアレックスさんは、恋愛事には興味きょうみが無いという。

 そんな息子に、何故なぜ見合いを用意したのか……なぞだわ。


「――ミオ・スクルーズ君……でしたか?」


「へ!?あ……はい、そうです」


 急にミオの名前が出てきて、変な声が出てしまった。


「すみません。ダンドルフ殿に聞きましてね……なんでも、私によく似ているとか」


 ヤバイ……顔が赤くなりそうだ。

 それこそが、私が小娘である証拠しょうこであり、未熟な若者だという、懸念けねんだ。


「……意地悪ですね、アレックスさんは」


「――ははは、そうかもしれませんね。団員にもよく言われます」


 よく言われるの?私、遠回しに性格悪いって言ったのに。

 だけど、そう言う所が……大人の余裕と言うものに、私は感じた。


「けれど、あと二年……もしミーティアさんが、そのミオ君を振り向かせられなかったら、私は貴女あなたに結婚を申し込みますよ……?そこだけは、残念ですが折れる気はありません」


「う……出来れば断って欲しかったですけど」


 私の言葉に、アレックスさんはゆっくりと首を振り。


「それは出来ませんよ。ミーティアさんも理解しているのでしょう?私は、この国の大臣の息子であり……騎士団の団長です。仮に決められた見合いだとしても……そちらから断られたらライグザール家の恥です……まぁ、それが出来ないから……ダンドルフ殿は私を選んだのでしょうがね」


「そう、思います……」


 考えは私も同じだ。

 都合がよかったのだ。


 父にも、大臣閣下にも……私という存在が。

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