5-62【アレックス・ライグザール】



◇アレックス・ライグザール◇


 その優し気な表情に、私はミオの面影を見た。

 しかし、ミオのそれ以上に輪をかけたような……好青年。

 イメージ的にはそうかも知れないわね。


「え……えっと」


「ミーティア。まずは座りなさい……」


 お父様に言われる。


「……はい、お父様」


 言われるがままに、私はお父様の隣にす。

 後ろにはジルリーネが待機して、準備は整ったのだった。


あらためまして……遅れてしまい申し訳ございません。ダンドルフ・クロスヴァーデンの娘、ミーティアと申します。大変ご無礼を……」


 ぺこり――と頭を下げる。

 動揺を見せない様に。


 正直言って予想外だった……この人、ライグザール大臣閣下のご子息?

 年齢的には、二十代前半……と言った所だと思うけれど、この前学校で大臣閣下に会った時、あの方は何も言わなかったのに。


「いえいえ。無礼だなんて思っていませんよ、お初にお目にかかりますからね……私も、ミーティアさんに会えて光栄ですよ。おうわさたがわぬ美しさ、見惚みほれてしまいました」


 ニッコリと、白い歯を見せて笑いかける好青年。


「……ありがとうございます」


 くっ……やりにくい。

 これでは、脂ぎった中年貴族の方がやりやすかったまであるわ。

 悪意のあの字も感じないその笑顔は、この機会を待っていたかのようにさえ見える。


「ライグザール殿は、お前を気に入ってくれたようだな。お前がよく言う……“運命の人”にも似ているだろう?」


「――お父様……」


 やられた……お父様は、わざとミオに似た人をぶつけて来たんだ。

 言わなければよかったとは思わないけれど、初めから……お父様は一切信じていないんだ。

 きっと私がミオを振り向かせられるとも、思っていないんだろう。

 やはりあの時、自分の口で言った「振り向かせて見せろ」という言葉は……何の言霊ことだまも宿っていない、作り物の言葉だったんだ。


「お気になさらず。ダンドルフ殿……そもそも、父の紹介ですからね……私も、【リードンセルク王国】の騎士団団長・・・・・の身。忙しくて伴侶はんりょを見つけるひまさえありませんから」


 リードンセルク騎士団の団長?

 それって……ジェイルが以前在籍していた椅子いす、よね。

 ちらりと一瞬だけジルリーネを見ると……コクリとうなずいた。


「大臣閣下には、冒険者学校でお会いいたしましたけど……その際は何も仰っていなかったので……おどろきましたわ」


 この話……いつから決まっていたのだろう。

 もし三年前から決まっていたとしたら……ミオと出会う前だ。

 それを踏まえてのさっきの発言だったなら……お父様は本当に性格がひねくれている。


「――そうでしょうね。私もですよ……父の冒険者時代の知人であるダンドルフ殿に、この様なお綺麗な娘さんが居るなんて。それにやはり……このお話はお受けしたいと思ってしまいましたよ」


「……」


 そうなんだ……この人も、そういうつもりで。


「――おお!そうですか……それは嬉しいお言葉だ、なぁミーティア」


 このタヌキ、本当に意地汚い。

 商人の交渉スキルをこんな所に出さないで欲しいものだわ。


 それに、どんどん外堀を埋めに来ている……このままではマズいわ。

 とんとん拍子で話が決まってしまいそうないきおい……なら、私にも覚悟がある……言ってしまうんだ――好きな人がいるのだと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る