5-59【疲労の方が多い】



◇疲労の方が多い◇


 パタン――と閉められた扉に、俺は思い切り背を預けてへたり込む。

 ここは、俺とミーティアの部屋だ……だから完全に気を抜いて、一気に緊張を解放したんだ。


「――はぁぁぁぁ~~……マジで疲れた、なんだよアイツ……あのオーラ。ヤバイ……絶対に敵に回したくない」


 思い出したくもないくらいには、疲弊ひへいした気がするな。

 あの男――ユキナリ・フドウ。

 アイツがはっした力の片鱗へんりんは……まさしく転生者の雰囲気ふんいきだった。


 ああやって少しおちょくる感じで出しただけでも、まぁまぁなプレッシャーだったな……俺も意地になって少しだけ圧を出したが、気付かれてないよな?


『――なら、やらずに静観せいかんすればよろしかったのでは?』


 ほぼ黙っていた【叡智えいち】さんが、急に声をかけてくる。

 まぁ、俺がユキナリの言動を記録しておいてくれって言ったからな。

 それに、俺がアイツに興味きょうみを持った言い訳を考えてくれていたし。


「仕方ないんだって。やられっぱなしもしゃくだし、舐められる訳にも行かないだろ?今後の事を考えれば、ユキナリが俺に手を出してこないと言う保証が欲しかった……」


『それでそこまで疲弊ひへいしていては、“その時”が来た時に苦労します』


 来ないで欲しいよ、そんな時は。


「まだ……大丈夫だろ。ウィズが言う“その時”……そいつは今すぐじゃないさ、だから、アイツも強行はしないと思う」


 少なくとも、今は【アルキレシィ】問題を先行しないと……夏だからな。

 あ。そうだ……明日はグレンのオッサンの所に行って、【アルキレシィ】の事を聞いてみるか。


『――では、まず食事ですか?』


「ん……ああ、そうだな。腹減ったのは事実だし……ミーティアを待って、飯食ってから話すか」


 【叡智えいち】さんは、まるでメイドさんのように次の予定をべてくれる。便利ですね。


 それにしても……疲れた分、腹がいつもより減った気がする。

 ミーティアは用事で家に帰っているはずだけど、遅くはならないと思うんだ。





 そんなこんなで、ミーティアの帰りを待つ俺だったのだが。


「――いや、来ねぇじゃん」


 ベッドの上で胡坐あぐらをかき、窓を見る。

 外は当然真っ暗、星が綺麗だ……ではなく、ミーティアが遅すぎるんだが!?


 ぐぅぅぅぅぅぅ……


「は、腹減った……」


 腹の虫が鳴りやがる……倒れそうなんだが。

 しかも疲れも相まって、マジでしんどい。


 更には、そろそろ就寝しゅうしん時間だぞ?

 あまりにも遅くないか、ミーティア。


『――先に食事を摂取せっしゅする事を推奨すいしょういたします』


 まぁそうだよな……別に絶対に待たなきゃいけないなんて約束はしてないし、飯を食うくらいはいいよな。


「……そうすっか。ジルさんに呼ばれたとか言ってたし、クロスヴァーデンの家にいるのは確かなんだ……そこまで心配しても、ウザがられるかも知んねぇしな」


 俺は立ち上がりキッチンに向かう。

 準備しておいた食材を、簡単に組み合わせてサンドイッチを作る事にした。


 夕食に一人でこれは悲しい気もするが……俺には成す術がないんだ。

 料理なんて出来ない。


 それに、まぁ……食えればいいしな。


「寝る頃には帰ってくるかな……ミーティア」


 そうして一人さみしく、サンドイッチを食し。

 部屋の隅でポツンと時間を過ごし……そのままベッドへ。


「寝ます……」


『はい。おやすみなさい』


 起きている間のお迎えはあきらめる。

 疲れがヤバい……眠い。


 しかし残念ながら。

 心配する俺の思いに反してミーティアは……その夜の内に帰ってくる事は、無かったのだった。

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