5-58【いずれ戦うとしても】



◇いずれ戦うとしても◇


 かはは……参ったなぁ……まさかの展開だよ。

 ミオっちがここまで簡単に挑発に乗って来るなんて、思ってもみなかったよ。

 もう少し冷静だと思ったんだけど、思ったよりも好戦的なようだな。


 俺は、目の前の金髪の少年を見ながら、心の中で冷や汗を掻いていた。

 この少年――ミオ・スクルーズの威圧感の前に。


 俺がその威圧の前にどう返答しようと考えていると、ミオっちが言う。


「――へっ……お返しだよ。さっきのな」


 ニカッ――と、ミオっちが笑顔を見せる。

 どうやら、さっきの俺の冗談に冗談で返してきたようだ。


「ふぅ……ビックリした」


 これは怖いな。選択を間違えば、今すぐにでも戦いになりそうだ。

 今すぐの戦い、それは俺も望んじゃいないんだよな。

 自分で仕掛けといて言うのも変だけど。


「へぇ。ミオっちもそう言う冗談するんだな」


「まぁな。お前が話を聞かせてくれたお礼?……だよ」


 なるほどねぇ、違った一面もあるって事か。

 となると、やっぱり疑惑・・は晴れないな。


 俺がこの冒険者学校へ入ったのは、ある目的があるからだ。

 母さんの能力――【神告しんこく】。

 そのお告げを……五年前に受けたからだ


『王女復活する地にて断罪者だんざいしゃ降臨こうりんす。その者、全てを断ち全てをべる……そしていずれ……世界をめっすだろう』


 意味……分かるかい?

 悪いけど、俺にはサッパリ分からなかった。

 俺も母さんも、【サディオーラス帝国】のお偉いさん方も、誰一人として理解出来ない神託だった。


 まずヒントとして、“王女”だ。

 ここ近辺の国で最も近い……王女が存命している国は、この【リードンセルク王国】だ……しかも、王国新聞で「病を払拭ふっしょくし、王政に名乗り出る」。なんて、これは“復活”と取れると、帝国のお偉いさんが言ってた。


 問題は……断罪者だんざいしゃだ。


 俺は国……【サディオーラス帝国】からの指示で、この冒険者学校に入ったんだ。

 途中でイシス――【女神イエシアス】に邪魔をされてごたごたしたけど。


 そもそもの目的は断罪者だんざいしゃって奴を探す事なんだ。

 罪を断つ者……それってつまり、正義の味方って事だろ?

 めちゃくちゃ格好いいよな。


「なぁミオっちさぁ……」


「あ?なんだよ?」


 俺が思う事を、素直に聞き入れるだろうか。

 このミオっち……ひねくれてそうだからなぁ。


「――俺と戦わないか?」


 ピクリと、片眉が浮いた気がした。

 しかしミオっちは、あせる様子も無く答える。


「……お前なぁ、さっきの俺の言葉聞いてたか?」


「ん?聞いてたけどさ、いいじゃん」


 戦うだけなら、別にいつでもいい。

 殺し合いをするって言ってるんじゃないからな。


「――いやだよ。だってお前強いじゃん……!悪いけど、勝てない試合はしないんだ。なんたって俺は――ひねくれてるからなっ!」


 わお、大正解だったぞ。

 そ、それにしても……自分で言うか?


 でもそうか……俺の行動がミオっちの選択をせばめてしまったんだな。

 あの日試験に遅れた俺は、その場で二年生の先輩さんをボッコボコのボコにしてしまった。

 その時点で、ミオっちは俺を警戒していたんだ……きっと、ミオっちのねぇちゃんも同じだな。近付いてこねぇし。


「えぇ~いいじゃん、やろうぜ?」


「嫌って言ってんだろ……しつこいともう二度と話聞かねえぞ!」


 ちょ、ちょいまち!それは困る困る!

 俺もこの国には知り合いがいないからな……今日ミオっちが声かけてくれて、俺の誘いに乗ってくれて、嬉しい気持ちもあるんだって。

 話を真面目に聞いてくれたことも、本当にありがたかったんだ。


 だから、あきらめる――今は。


「ちぇ……分かったよ」


「よし、ならいいさ。っと……もういい時間だな、腹減ったわ」


 ミオっちは腹をさすりながら立ち上がる。

 あれれ……もう行っちゃうのかい?


「そっか……」


 ミオっちは俺の顔を見て。


「――なんだその顔っ!子供か!!」


「?」


 俺はいったいどんな顔をしてたんだろうか。

 でも仕方ないだろ、産まれてからこの十七年、友達なんていなかったんだ。

 仲間は出来ても、友達なんて……作り方が分からねぇよ。


 産まれる事が出来なかった前世でも、孤独で一人だった今世でもな。


「……じゃあなユキナリ。また明日……あ、いや……明日は用があるから、いつかは確約出来ねぇけど……そんじゃあな!」


 ミオっちは、まるで捨て台詞を言った後のようにそそくさとして、俺の部屋から出ていく。

 あ!ぐぅぅぅ……って鳴った。本当に腹減ってたんだな。


「おおっ、じゃあな!」


 でも……そうか、これが――友達って奴なのかな。

 今までの戦って来た転生者たちのような、好奇心こうきしん丸出しの奴らとは違う。

 目的を同じくする、帝国にいる仲間たちとも少し違う……


 ミオっちのその考えはまだ理解できないけど……俺の目的が達成される前には、仲良くなれればいいな……たとえ――いずれ戦う時が来るとしても。

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