5-57【異世界産まれの日本人3】



◇異世界産まれの日本人3◇


 前世で……産まれる事の出来なかった転生者。

 それが、ユキナリ・フドウと言う男の出生の話だ。


 命が宿り、しかし産まれずしてその小さな命を失ってしまった。

 その時点で女神に選定されて、転生させられたのか……こいつは。


「だから、記憶がないって?」


「そー言う事さ。俺が自分を日本人だって言うのも……そうありたかったからだな」


 自分に言い聞かせるように、ユキナリはうんうんとうなずいている。


 産まれる前に転生した……つまりはこの世界の人間という方が正しい気もする理屈だ。

 それでも……自分を日本人だと言い張るのは、神に言われたからか……それとも、母親が転生者だと知った時に、日本人の転生者である母親から産まれた自分を、日本人だと思いたかったからなのか。


「まぁなんにせよ、俺が日本から転生してることは事実なんだ。特殊能力もあるしなっ!」


「へぇ……どんな?」


 何の気なしに聞いてみる。

 本当に、「別に興味きょうみないですぅ」……みたいなあざとい感覚で。


「――ふっ……ミオっち。そりゃあ秘密さ、言ったら……戦う時・・・に楽しみがなくなるだろ?」


「……――!」


 コイツ……いきなり雰囲気ふんいきを変えてきやがった。

 まさか、初めから俺を試してたのか?


「……」


「……」


 クソッ……空気が重いな。

 ユキナリがどこまで本気なのかが読めない。

 俺が変にボロを出すわけにもいかねぇしな。


 そんな俺の心の葛藤かっとうなんて知らないユキナリは。


「――ぷっ!あっはっはっは!!冗談だよ、冗談!そんな怖い顔するなってミオっち!」


 重い空気が、一瞬にして割れた。


「……な、なんだ……ビビらせんなよ」


 雰囲気ふんいきが戻ったな……さっきまでの空気がまた一変する。

 だけど思ったのは、まぎれもなくこの男は……転生者であるという事だ。


 一変した雰囲気ふんいきは、クラウ姉さんが【クラウソラス】を使っている時の物に近しいと感じた……それはまさしく、転生者が持つ特有の空気だと、俺は思う。

 クラウ姉さんをはじめ、他の転生者がどう感じるのかは知らないけど、少なくとも俺は……これが“転生者の証拠しょうこの一つ”だと思ったんだ。


「でもさミオっち……」


「ん?」


 ユキナリは俺の目をまっすぐ見て……言う。


「ミオっちはどうなんだ?なんでこんなに俺の話を聞きたがる?……さっき寮の入り口で会った時、俺の誘いを断らなかった本当の理由はなんだ?」


 こいつもこいつで、俺を疑ってたのか。


「……なんだ、そんな事か」


 こいつも、一応は俺を気にしてるんだな。

 ただの呑気のんきでアホな男かと思ったけど……認識をあらためないと駄目だめかもな。


「ああ。聞かせてくれよ」


「――別にいいけど。簡単な事さ……」


 そもそもの理由は、このユキナリ・フドウと言う男が、俺の生活に悪影響を与えるんじゃないかと思ったからだ……まぁ、それは言わないけどな。


「――単に、お前が気になったからだよ」


「気になった?」


 少し鋭い視線で、俺を見る。

 だけど……俺の中ではもう答えが出てるんだ。


 【叡智えいち】さん……ウィズがこの話の間にも提案してくれた、とっておきの言い訳がな。


「ああ。俺も、一応は首席の弟だからな……気にもなるさ、突然現れた同級生なんて……しかも二年生の先輩をぶちのめす実力者だ、お前だったらどうだ?気にならないか?」


 俺はオーバーアクション気味に、手を振って言う。

 ちょっとわざとらしいが、それでもこの言い分には説得力がある。

 クラウ姉さんが首席でよかったよ。


「……うん。なるなぁ」


 ユキナリはあごに指をあてて言う。


「だろ?そりゃあ話も聞きたくなるさ。自負する訳じゃないけど、俺もそれなりに戦えるつもりだよ……それこそ――お前とだってな」


「――!」


 ここで、ちょっとしたお返しだ。

 圧の掛けられっぱなしは、俺も好きじゃないんでね。

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