5-56【異世界産まれの日本人2】



◇異世界産まれの日本人2◇


 ユキナリが発言した事を、俺はそのまま考えていた。

 ユキナリを産んだ母親が転生者であり、自分もまた……転生者であるという事だ。


 能力――【神告しんこく】。

 神のお告げを聞く事が出来るらしい能力だ。

 そう言うが、実際……神のお告げってなんだ?

 ユキナリの母親は処女のまま妊娠して、ユキナリを産んだ……村では聖女あつかいか。


 どこの聖書だよ。


 って言っても、異世界で魔法や能力があるんだからツッコミは入れられないな。

 俺たち転生者だって、言ってしまえば似たようなもんだし。


「おーいミオっち、聞いてるか?」


「ん、ああ……すげぇ話だなって思ってた」


 これは本音だし本気でそう思ってる。


「かっはっは!んじゃ、続けるぜ?」


 ウィズ……頼むな。


『現在進行形で記録しています』


「俺の母さんは、俺を産んだ後……“特殊な例”って事で帝国に連れて行かれたんだ。生まれたばかりの俺も一緒に連れてかれてさ、俺は幼年期を【サディオーラス帝国】で育ったんだよ」


 そうかい……言ってしまえば、ほぼ同郷の者じゃないか。

 つーか、帝国は人さらいまでしてんのかよ。

 もしかして、結構ヤバイ国だったりします?


「お前が、その……てんせいしゃ?に気付いたのはいつなんだ?」


「――お、イイ所に気付くじゃないかミオっち!かははっ、それはな……神様・・に聞いたからだよ」


 神様……つまり転生時に、自分を転生させてくれた女神の事だな。


「神様……ねぇ」


 いかにも胡散臭うさんくさそうに、俺は言う。

 信じてないですぅ……って感じで。


「お、信じてないな……神はいるんだぞ~?」


 確かに、本来なら信じないタイプの人間ですけどね……なんだけど、まぁ……女神様を二人ほど知ってるんでね……ポンコツ汚部屋女神と、何考えてるか分からん神出鬼没女神だけどさ。


「――ああはい。続けてどうぞ」


 俺の言葉に、ユキナリは笑いながら。


「おーい。神様信じろよぉ……罰が当たるぞ?ん、まぁいいか……それじゃあ続けるわ」


「おう、頼む」


 そうしてユキナリは、自分が日本人と宣言する理由をべる。





 聞いた話は、だいだい俺が転生した時と同じだった。


「その神様は、時間がてば記憶が戻るって言ってたよ」


 そうだろうな……俺も、多分クラウ姉さんも言われてる事だと思える。

 まぁ、俺は何故なぜか産まれた瞬間から記憶があって、地獄のような赤ちゃん時代を過ごしたが。


「でも……」


「ん?」


 ユキナリは、まるで逡巡しゅんじゅんするかのように……一瞬だけ躊躇ためらい――そして言う。


「俺は……そもそも元の世界の記憶がないんだよ」


「……?」


 どういうことだ?

 転生者なんだよな、コイツ。


 それらしい事を言ってるくせに……記憶がないだって?

 なのに、何故なぜ自分を日本人だと言えるんだよ。


「おいおい、変な顔だぞミオっち。説明するって……」


「あ、ああ……悪い」


 なぞだらけだ……この男。


「元の世界ってのは、日本……って国だ。俺は、そこで産まれるはずだった・・・・・んだ」


 はず?転生者なんだろ……?

 俺は考えつつも、ユキナリの言葉を聞く。


「俺は、どうやら産まれる前に死んだらしいんだ……その神様が言うにはな」


「……」


 産まれる前に死んで、そして転生した……?

 それってつまり……母親のはらの中で、その命が失われた……そういう事か。

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