5-53【緑風艶石】



緑風艶石りょくふうえんせき


 その緑色の石は、地球で言う所のエメラルドなのだろう。

 綺麗にかがやき、すでに加工された状態だ。

 熊のおっちゃんが加工したんじゃないとすれば、きっと専門の技術を持った人が居るんだろうな……この宝石箱の中身の石は、どれもが加工済みのものだったし。


「エメラルド……?」


「ん?いや、そんな名前もたまに聞くが……こいつの名前は【緑風艶石りょくふうえんせき】って言うんだ。風の加護を受けた、【レバメール】産さ」


 【レバメール】ってのは確か、北方の地域の町だったな。

 ジルさんとの勉強で聞いた覚えがある。

 石が採掘出来るってことは……鉱山の町なのか、【ポラ】の町と似た感じか?


「風の加護ってのは?」


 加護……おそらく魔力の事なんだろうけど、曖昧あいまいだな。

 これは聞いておきたい。


「おうよ。【風霊シルフィード】様が加護を与えた、風の力を持つ石だ」


 【風霊シルフィード】……精霊の一種で、簡単に言えば――シルフなんだろうと予想がつくが……やっぱり、いるんだな。

 そう言った精霊みたいな存在もさ。


「なるほど……それで、この石は魔力を増やしてくれんの?」


 そう……どんなに凄くても、どんなに安くても。

 最大の問題はそこなんだ。


「いや、どちらかと言えば……魔力の消費を抑えてくれる、って感じだな」


「へぇ……」


 ふ~ん。いや、でも……風の力・・・か、考えようによっては、イリアの【念動ねんどう】の補助にもなれるかもしれない。


 その有用に気付いた時点で、俺はこの石をアクセサリーに組み込むことを決めていた。


「――よし、ならこれにするよ。色味も綺麗だし、少しでも魔力を抑えられるんならそれでいい。それに、イリアに似合いそうだし」


 ハーフエルフって言うくらいだし、なんとなくシナジーを感じるよな。

 エルフとシルフってさ、物語によっては同一の存在だったりもするしな。

 語呂がいいからだろって?……おいおい、言ってやるなよ。


「ミオのあんちゃんがそう言うなら了解だ。早速今日から作業に入る事にしよう」


「助かるよ、おっちゃん」


 俺は一言、熊のおっちゃんに礼を言うと、店を出る。

 さてと……次はどうするかな。


 根本こんぽんを言えば、頼んだアクセサリーが完成するまでは行動をしにくい。

 イリアの自主練に付き合うにしても、全てがそろった状態の方が安定するに決まってるしな。


 それにしても、宝石の価値がやばいな……下手すりゃ億万長者になれるっつうのに、普通に一般素材扱いだもんなぁ。

 宝石にもピンからキリまであるだろうけど、俺の目には高級品に見えたね。

 地球じゃ何十万や何百万って値を張りそうなものばかり……盗んだ奴だって、きっとろくでもない転生者だろうよ。

 この世界で売れない時点で、意味は無いのにな。


「ん……?」


 帰り道……男子寮に到着する直前に、転生者と出くわす。

 俺の知ってる転生者なんて、クラウ姉さんと……もう一人しかいない。

 そして男子寮って言うなら……一人しかいないよな。


「――おお!ミオっち!」


 俺を見かけて、手をブンブンと振る黒髪の男。


「……ユキナリ・フドウか」


 自分を堂々と日本人と宣言する黒髪の男。

 名前はユキナリ・フドウ……丁度いい、ラッキーな事にこっちは一人。

 クラウ姉さんもミーティアも居ないのなら、俺も多少は自由に話せる。


 前から思ってたんだ……こいつからもさ、色々と聞いてみたかったんだよな。

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