5-54【手探り】



◇手探り◇


 ユキナリ・フドウ――


 自分を日本人と宣言する、この世界から見れば頭のおかしな男……なのだが。

 転生者の俺から見たら、危険な人物になる事は間違いない存在だ。

 用事を終えて男子寮へと戻り、俺はそのユキナリ・フドウと共に中に入る。

 向かう場所は……ユキナリ・フドウが自室としている物置だ。


 一階の寮母室……その隣にある物置。

 ここがユキナリ・フドウの部屋か……なんとも場所の悪い所だな。


 俺は量の前でこの黒髪の男と鉢合わせをして、少し話をしようと思った。

 当たりさわりのない事を数分だけ話して、どうするか考えていたのだが……ユキナリ・フドウが。


『んじゃ、俺の部屋に来る?』


 その一言で、俺はこいつの話を聞いてみることにしたんだ。

 好都合だと思ったね……この男が何を考えているのか、何が目的で自分を日本人だと言っているのか……俺には理解出来ない事ばかりだったからな。


 そんなユキナリ・フドウと、俺はこいつの部屋に足を踏み入れた。





 キィ――と開く度に鳴る扉を開けて、入室。

 そして俺の第一声は……こうだ。


「――き、汚ねぇ……!」


「あっはっは!悪いなミオっち、掃除するひまないんだよなぁ」


 この部屋には、元から存在したであろう多くの物が乱雑に散らばっていた。

 どこかの女神ほどではないが、汚いと言われれば……まぁ物凄く汚い。


「掃除くらいしろよっ!ってか、ここで寝てるのか?毎日?よく平気だな……ユキナリ・フドウ」


 幸い、汚部屋には慣れている。

 アイズしかり、クラウ姉さんしかりな。

 しかし、現在俺の同居人であるミーティアは綺麗好きだ……俺もどちらかと言えば掃除をする方だし……家族でもクラウ姉さんだけが異質だったからな。


 ユキナリ・フドウは、俺の「掃除しろ」を無視して。


「まぁな!というかさ、フルネームで呼ぶなよ~。ユキナリでいいぜ?もしくはユッキーとかさっ!どう!?」


「……ユキナリでいいや」


 ユッキーってなんだよ……そこまでフレンドリーな関係になるつもりはねぇ。

 つーか、お前は何で俺をミオっちとか呼ぶわけ?許可してませんけど。


「えー。つまんねぇーの」


 ユキナリは部屋に散らばってる物を足でよけながら、俺の言葉に口をとがらせる。

 そのやり方、村で見たぞ……マジでタイプ一致してるじゃん、汚部屋の住人よぉ。


「……いいから、せめて座れるくらいにはしてくれよ」

(いるんだよな、クラスに一人必ず。こういうフレンドリーな奴がさ……俺の苦手なタイプだ)


 でも……ユキナリ・フドウ、こいつから何か情報を聞き出すチャンスでもある事は確かだ。

 自分を日本人だと宣言するって事は、俺たちのような転生者であるという事だろうし……だけど、問題はこの見た目だ。

 黒髪に、名前もそうだ。ふどうゆきなり……漢字は知らんが、絶対に日本人だという事は確証を持てる。


「――なぁ、ユキナリ。あんたは、どこ出身なんだ?」


 ガサガサ……と音を鳴らして、ユキナリは答える。


「あ~?日本だよ、遠い遠~い国さ。まぁ、この世界で産まれたのは【ミバラーサ村】って言うんだけどな」


「にほん……」


 俺はわざと、日本の発音をずらして、聞き慣れないフリをする。

 しかし発音よりも、ユキナリは。


「――お、信じてくれるのか?今までだ~れも信じなかったんだけどな、聞いた事ねぇってさ」


 なるほど……そもそも信じられない事の方が多いのか。


「い、いや……確かに聞いた事はないけど。それは村か?」


 日本村……ちょっと面白い。

 ドイツ村的な何かかな?


「――国だよ。でも、俺は知らない・・・・んだよなぁ」


「……!」


 はっ?知らない?なにを言ってる……こいつ。

 どういう事だ?転生者なんだろ?


「いったいどういう事だよ、自分の出身地なのに……知らないのか?そもそもそんな場所、本当にあるのか?知らないってなんだよ……ユキナリ」


 なんだ、こいつのこの違和感。

 日本人だって言う割には、知らないとか絶対におかしい。

 元・日本人の転生者と会話をしてるって感覚じゃない……不自然過ぎる。


「――おいおい、落ち着けって。興味きょうみを持ってくれるのは嬉しいが、そこまで矢継やつぎ早に言われたら、出るもんも出ねぇだろ?」


「あ……悪い、知らないことが多すぎて、興奮してしまった」


 やべ……つい。

 しかしユキナリは、格別気にする事なく。

 笑いながら、続ける。


「へへへっ、いいっていいって!ミオっちが聞きたいなら教えるさ。俺も、今までだ~れも信じてくれないしさ、聞いてくれたと思えば“どんな力を持ってる”とか“仲間になれ”とか言う奴ばっかでさ……飽き飽きしてたんだ」


 ユキナリは、純粋に日本の事を聞いてくれた事が嬉しいらしい。

 なら……俺も慎重に、けれど聞き得る事は聞き出しておきたい。


 今後、もしコイツと戦う事になったとしたら……そう考えると、策は打っておきたいからな。

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