5-52【宝石の効果とは2】



◇宝石の効果とは2◇


 自分の浅はかな考えにも困ったもんだな……まさか、俺と同じネタをぶち込むアホが居るとは……え?ありきたり?

 いやいや、だってそうだろ……本物の宝石箱なんて、人生で初めて見たんだぞ?


 言って見たくもなるって、「宝石箱やー」ってさ。


「ゴホン……にしても、マジで綺麗だな宝石って」


 気を取り直して、俺は宝石箱に意識を向ける。

 色とりどりの石は様々なサイズの大きさに、何種類もの数がある。

 きらめくその石たちは乱反射しあって、非常にまぶしい。

 そして……地球だったら絶対に高価だ。


 ゴクリとのどを鳴らして、俺はその一つを恐る恐る持って見る。


「お、おおおお~……」


 ふるえるわっ!!高いと分かっているからか、それとも俺が持ち合わせている貧乏性なのか……あと、宝石の価値が分からん無知とかな!


「がっはっは!そんなにふるえるとは面白いなあんちゃんは、そんなもの、よく盗まれるくらいのものだぞ?大した価値も無いのによくやるもんだっ」


 マジか……この世界の価値観分かんねぇよ!

 これが盗まれる?それをそんな笑顔で言うなよ店主!窃盗せっとうじゃないか!


「ひ、被害は無いのか……?」


 もう戦々恐々の俺とは違い、おっちゃんは笑顔で。


「まぁなぁ。なにせ、加工しないとただの色のついた石だからなぁ……貴族はドレスなんかにもつけるらしいが……一般人は興味も持っていないぞ。あとはそうだな、やはり冒険者には必須だが……それでも盗まれて大きな被害になる事はないぞ?」


 マジかよ……地球だったらニュースだって。


「それじゃあ、盗んだ奴は冒険者って事になるよな……」


 ゆっくりと優しく石を戻して、俺は言う。

 その言葉に、おっちゃんは感心したように。


「お、おお!なるほどなぁ……!こんな石ころを欲しがるのは、余程の物好きとか思ってたが……冒険者か、いや納得だぁ」


 まぁ、十中八九そうだろうな。

 貴族なら金には困らないし、一般人がわざわざ価値の分からない宝石を盗む理由はない……なら、その価値が分かる冒険者しか犯人はいないだろ。

 それか、転生者。


「今まで気付かなかったのかよ、熊のおっちゃん……」


 実に暢気のんきな店主さんだこと。

 しかし、それほどの盗難被害があっても店の経営が成り立つって言うなら、本当に宝石の価値がないんだろうな。


「がははははっ!言われればその通りだなっ!ミオのあんちゃんに言われなかったら、まったく気付かんかったな!」


 おいおい、危機管理のなさよ。

 だけど、これは冒険者にとっては好都合なんだろうな。

 様々な効能を持つ宝石……その価値は最低限だ。

 それをこんな低価格で買えるんだ、自分の強化が楽になる。


「……ど、どれにすっかな」


 価格を気にしなくていいのなら、やはり効果を重視した方がいい。

 イリアの残りの課題は魔力だ。

 よくRPGで見かける魔力関連の宝石は、エメラルドとかか?


「魔力補助の装飾にするんだろう?なら……これはどうだ?」


「ん?」


 おっちゃんが見せてくれたのは、俺が予想した通り緑色にかがやく石だった。

 商品名は……――【緑風艶石りょくふうえんせき】。つやのある濃い目の緑色をした、風の加護を持つ宝石だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る