5-47【ミオVSイリア1】



◇ミオVSイリア1◇


 ガントレットの性能を試すには、【念動ねんどう】を使って見る他にはないだろう。

 一番手っ取り早いし、何より俺も見てみたい。

 イリアには連日無理をさせる事になるが、魔力だって使えば使うほど強くなるだろうし、ここは頑張り時だぞ。


「よっ……と」


 軽い屈伸運動と両腕を伸ばすストレッチをして、俺は準備を終えた。

 イリアは初めから運動前だったし、ぶっつけ本番でも大丈夫だろう……多分。


「大丈夫ですか?ミオ。私は大丈夫ですが……」


 いいのか?俺の心配なんぞして。


「ああ、平気だよ……――【極光きょっこう】!」


 両腕と両足に、虹色の光をまとわせて俺は構える。

 光のカーテンは一瞬だけ光って、俺の手足に張り付くように消えていく。

 これで俺の準備はオーケーだ。


 カラドボルグは使わない。俺にも俺で課題があるからな。

 格闘家……ってわけではないが、少し試してみようと思ったんだよ。


「さぁ。始めようぜ、イリアっ!」


「はい!!――では、い……行きますっ!」


 気合を入れるイリア。


「おう!来いっっ!」


 先手はイリアにゆずるさ。

 俺は構えているだけだ。

 今回は受け手に回る事にしたんだよ。


「――はっ!!」


 イリアは左手に持っていた短剣を投げると、それを無視して駆け出す。

 その視線の先は勿論もちろん俺だ。


 かく言う俺は、投げられた短剣に視線が行き行動が少し遅れる。

 物の見事に視線誘導に引っかかったという訳だ。

 素人だねぇ。


「おっ!」


 イリアは持てる自分の武器……スピードを出し切って戦う気だ。

 投げた短剣の片割れは宙でクルクルと回転していて、いつ落ちてもおかしくはない。しかし落ちない……イリアが必死に操作しているんだろう。

 それだけは顔を見れば分かる。


「はぁぁ!」


 イリアが右手に持った短剣の一閃は、俺の胴を狙っていることが分かる。

 まぁ遠慮えんりょは要らないんだけどさ、その剣……本物なの忘れんなよ?


「ほっ……っと!」


 バチン――!!……っと、イリアの短剣を俺は腕で防ぐ。


『ご主人様の心拍しんぱくが急上昇』


 黙っててくれウィズ!

 やっぱり刃物は怖い!!


 【極光きょっこう】をまとった左腕は、虹色のオーラでおおわれており、腕に直接触れる前にバチバチと短剣の接触を防いだのだが。

 【叡智えいち】さんが言うように、心臓がヤバい。

 今にも飛び出すんじゃないかと思うほど、バクバク言ってる。


 自覚アリだ……俺は、女性に刃物を向けられるのが怖いんだ。


「くっ……それは!」


「はははっ!残念だったなイリア!」


 視線誘導の読みは良かったと思うよ。

 実際俺も引っ掛かったし、一か八かの戦いでは大いに有効だ。

 それを……卑怯ひきょうって言う奴も居そうだけどな。


 俺は自分の刃物への恐怖心を誤魔化ごまかしつつ、イリアに余裕を見せるフリをする。

 本当は……怖くて泣きそうだった。


『――ご主人様。右方から短剣が迫ります、二秒前』


 そういう手か!

 どうすっかな!?


『【極光オーロラ】で蹴り上げて下さい。キルネイリア・ヴィタールの【念動サイキック】操作を確かめるには、それが一番の課題です』


 なるほどな、操作を失った後の立て直しか……了解だ。


「――甘いぜイリア!」


 俺は、まるで自分で気付いたようなセリフをきながら、右から迫って来た短剣を――足にまとった【極光きょっこう】で蹴り上げた。

 イリアが持つ方の短剣をはじいて、まるでカポエイラのような動きで、なんともアクロバットな動きだった。


 バチン――!と一瞬だけ音を鳴らすと、もう一つの短剣は上空にフラフラと打ちあがる。


「――あ!」


 言葉を失うイリア。


 さぁ、この後だぞ。

 蹴られた衝撃によって、【念動ねんどう】の操作はゆるゆるになっている。

 イリアが自力で待ち直せるようにならないと、この訓練は何の意味もないんだからな。

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