5-39【一人で帰ります】



◇一人で帰ります◇


 イリアの為にアンティークのガントレット、クラウ姉さんに熊の置き物……そして――何故なぜかミーティアにもプレゼントをすることになったんだが。


 いや……まぁなんにせよ、俺がアクセサリーショップ【たかの眼】で三品分の会計を済ませると、外で待っていた女子三人が話をしていた。

 どうやら、この後お茶に行くらしい……いいね、仲良さそうで。


「――はい、クラウ姉さん……今日はありがと。こっちはミーティアな、いいのか?こんなんで」


 無言で熊の置き物を受け取り、笑顔を見せるクラウ姉さん。

 俺が渡した、針金で出来た星形のバッジを受け取るミーティア。


 会計ギリギリで、クラウ姉さんに「ミーティアにも買いなさい」と言われて選んだので、そんなものしか買えなかったけど……本当に良かったのかな。

 ちなみに甘えられては無いぞ。


「そんな事ないわ、とっっっても嬉しい……ありがとう、ミオ」


 針金細工のバッジ。この店でも安物で、質もそこまでよくはない。

 いやいや、買う時に熊のおっちゃん本人が言ったんだからな?他意は無いぞ。


 ミーティアはそのバッジを胸元に着けた。

 五芒星ごぼうせいかたどられた、曲がりくねったアクセサリーだ。

 それ商品なの?って誰かに聞かれても、意思を込めて「はい!」とは言えない代物だよなぁ。

 でもまぁ。本人が喜んでくれてるならいいんだけど。


「そ、そっか……ミーティアがいいならいいんだ」


 喜んでくれるのは、“星”って言う名前にシナジーがあるからか……それとも――


『――ご主人様が買ってくれたからでしょう。ようは何でもよかったのです……わざと安いものを選んでいたようですし』


 だろうね。【叡智えいち】さんの言う通りだよ、多分な。


『――多分ではありません。確実に』


 分かってるよ!恥ずかしいから誤魔化ごまかしたんだろう―が!

 俺は【叡智えいち】さんとそんなやり取りをしながら、仲の良い女子三人の後ろをついていく。


 かしましいと言うか、居たたまれないと言うか……これじゃあ俺、女子の後ろに付いてく不審者じゃね?


『――フッ』


 おいこらウィズ……笑ったな?


『……』


 くっ……だんまりかよ。


 この後の予定は三人がお茶……俺は特になし。

 本当はやっておきたい事もあるんだよな……俺は手に持つ箱を見て考える。

 その箱の中身は、イリアに買ったガントレットだ。


 一度俺が預かって、【無限むげん】を使用して整備することにしたんだよ。

 勿論もちろん、イリアの許可を取ってな。

 【叡智えいち】さんも何か重要な事を言ってたし……そうだな、ここは三人に一言、適当でも言って……退散しようか。


「――皆、俺は帰るよ。三人で楽しんで!じゃっ!」


「「え?」」

「ちょ、ミオ?」


 そう一言だけ残して反転、俺は猛ダッシュした。

 しかし、走り去る俺に【叡智えいち】さんが。


『――何が一言ですか、不自然過ぎです。これでは居たたまれなくて逃げ出した小心者です』


 グッサ――!!


 くぅ……分かってるよ!俺が一番分かってるっての!

 でも仕方ないんだ、だって知らないもん……女子たちのあの雰囲気ふんいきからうまく逃げだす方法なんて。


 かくして、俺は一人で寮に戻るのだった。

 言っておくが、けっして女子たちの仲いい雰囲気ふんいきを見てられなくなった訳じゃないからな……絶対だぞ。

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