5-38【合う合わないじゃない】



◇合う合わないじゃない◇


 新たな一面を見せてくれた面白いクラウ姉さんには、今日付き合ってもらったお礼をするとして……ミーティアとイリアはどうだ?

 そろそろ説得も――おっと、丁度ちょうど話が終わったらしいな。


「で、ではミオ……せっかくのミオのご厚意、ありがたく頂戴ちょうだいいたしますっ!」


 緊張気味に俺に頭を下げるイリアの後ろで、ミーティアは俺に軽くウインクをする。

 クラウ姉さんとは違って、バチコーン――!と俺にヒットした。


 まったく、敵わないな……ミーティアには。


「ああ、それじゃあ選んでくれ……って、さっきから結構見てたよな?」


 イリアの趣味なのかどうなのかまでは分からないが。

 さっきから何度も目で追っていた商品があったんだが……気付いてたよ。


「――は、はいっ!実は……」


 その商品は、ショーケースの端っこで放置されている物に見えた。

 ほこりは被っているし、どう見ても中古と言えるような……ガントレットだった。


「これ……って」


 ええぇ……ボロくない?

 びれてるってこれ。


「はい!これなら手を守れますし、重さはあるかもしれませんが、訓練できたえます!」


 そういう問題……かぁ?

 もうそれは関係ないんじゃないかってくらい、古びてるが。


「く、熊のおっちゃん!これ……試着してもいいか?」


 この店の店主……熊の獣人、ガドランダのおっちゃんは「おお、構わねぇよ」と言って、ケースを開けてくれた。


「――あいよ、嬢ちゃん」


「感謝します、店主!」


 嬉しそうじゃんイリア。

 でも、このガントレット……めちゃくちゃびてるし、汚ねぇ。


 イリアは何というか、古い物……良いように言えばアンティーク好きなのかな。

 でもこれ、効率的に考えたら、良い物ではないよなぁ?


「お、重いです……」


 両腕にはめられたガントレットは、手首までをおおう物だった。

 昔は銀色だったであろうその面影はなく、錆色さびいろでギッシギシ音が鳴る……なぁ熊のおっちゃん、置き物じゃないのか、それ。


「……」

(いや、待てよ……)


 俺は考える。このガントレットを買うとして――イリアの為になるか?

 金はあるんだし、言ってしまえば高級品を買えばいいのではと……似合う似合わないじゃないんだよなぁ……今回ばかりは。


 【アルキレシィ】を倒すために、イリアを強く……プロデュースするんだ。

 好きなものを持たせてやりたい気持ちもあるが、ここはやっぱり心を鬼にして。


 俺が鬼の心を持とうとした瞬間――【叡智えいち】さんが。


『――【無限むげん】を使用し、更に最高級品へ昇華させることを推奨すいしょうします』


 俺は口から出掛けた言葉をシャットアウトさせて。


 【叡智えいち】さん……それ難しくないですか?

 確かに【無限むげん】で操作は出来るだろうけど、装備品がどれだけのパーツで構成されていると思ってるんだよ、【無限むげん】は全体を通して操作できるんじゃない。

 無限という言葉があだになるくらい、その使用範囲が多すぎて、数が多ければ多い程大変なんだよ。


 それに素材によっては、石のほうがマシのパターンまであるぞ。


『――ですから、ウィズがいるのです』


 は?【叡智えいち】さん……それってまさか、と俺は思ったが……その前にイリアが俺に言う。


「ミオ……どうでしょう、私はコレがいいのですが」


「え、あ……ああ。それじゃあ、これを買って整備しようか。まさかこのまま使う気じゃないだろ?」


 俺の心内での疑問ぎもんは、帰ってから【叡智えいち】さんに問質といただすとして……まずは買ってから考えるしかないな。

 イリアはもう、このガントレットをたいそうお気に召したようだし……仕方ないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る