5-37【甘えてみましょうそうしましょう】



◇甘えて見ましょうそうしましょう◇


 俺とミーティアは同じ考えを持っていた。

 その考えは、別段目新めあたらしい物では無くて、考えれば出てくるようなものだが、それでも同様の意見を述べてくれるのは大いに助かる。


 そしてどうらやら、ミーティアはイリアにもその話をしていてくれていたようだ。

 手っ取り早くて助かるったらないね、この子は。


「――ミーティアのお話しは聞いています。私も納得ですし、ぜひ購入したいですっ」


 イリアも乗り気で、もう決まったようなものだ。

 じゃあ後は、選ぶだけだな。


「そっか。なら、どれがいいかな?」


「え?」


 パッと振り向いて、俺を見ているイリア。

 ちなみに俺は、もう視線を移してたんで気付かなかったけど。


 ショーケース……と言うにはボロいし小さいしガラスでもないけど、その中には腕に着けるであろう装飾が並べられていた。

 腕輪や指輪は勿論もちろんのこと、防具に分類される手袋や手甲などもそろってる。

 欲しいのは……そうだなぁ。


「――飛んでくる剣をつかむんだ、手は全体をおおうくらいがいいよな。それに重さも重要だ……重すぎたら、投げるのにもつかむのにも支障が出ちゃうもんな」


「え、っと……ミオ?」


「ん?」


 どうしたんだよイリア、そんなにキョトンとして。


『――キルネイリア・ヴィタールは、どうしてご主人様がご購入するような言い方をするのか……と言いたいのでしょう』


 ああ、なるほどね。

 そりゃあ買うさ……もともとそのつもりだったんだし。

 その為の素材売却なんだからな。


 もしかしてイリアは、全部自分で出すつもりだったのか?

 そうだとしたら、今日一日心臓バクバクだっただろうな。


「プレゼントするからさ、この通り……素材も売れたしな!」


 イリアに見せる。袋に入れられた金貨銀貨だ。

 ジャラジャラ――これ見よがしに音を鳴らし、店内に響かせる。


「で、ですが……」


 イリアは自分の腰元の袋……財布をぎゅっとにぎる。

 あーこれはあれだ。ゆずらない感じ?


 あれだね、絶対に男におごらせないウーマンだ。


 俺はミーティアをちらりと見る。

 するとミーティアは、クスリと笑ってアシストをしてくれた。


「ほら、イリア……ミオがこう言うんだから、格好つけさせてあげて?ね?」


 ミーティアはイリアの背をポンと叩く。


「いえ、ですが……私は自分で」


「もうっ……頑固なんだから。女の子は、時に男の子に甘えるくらいがいいのよ?ね、ミオ」


「え、あ……うんっ!」


 え――そ、そうなの?


 俺が内心で「ほほう――」と感心していると。

 説得を続けてくれるミーティアを見ながら、クラウ姉さんが俺の隣にやって来て。


「……ですって、ミオ」


 その手には、熊の……なにそれ?


「なにそれ」


「ねぇミオぉ……お姉ちゃん、これ欲しいなぁ~」


 くねくねして、上目遣いで俺を見るクラウ姉さん。

 あははははっ……なにこれ面白過ぎなんですけど。

 もしかしてあれか?ミーティアが言った「時には甘える」ってのを実行してます?


「……ねぇ~」


 ヤバイ……大声で笑いたい。

 こんなクラウ姉さん初めて見たぞ。

 前世で、ろくに男にへつらうタイプじゃなかったに違いない。

 甘え方が古典的で慣れて無さすぎる……!


 パチン――パチン――


 ウ、ウインク……か!?それ両目ですけど!

 ああ、そう言えば案外……不器用だったんだこの人。


「――わ、分かったから……それ以上は」


「本当にっ!?」


 太陽の様な笑顔だった。

 購入時におっちゃんに聞いたけど、クラウ姉さんが持ってるのは熊のペーパーウエイト……いわゆる、文鎮ぶんちんだな。

 手紙を書くのか置物にするのか知らないけど、クラウ姉さんの意外な一面を見た気がしたよ……あー面白かった。

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