5-35【防具調達1】



◇防具調達1◇


 よしっ、魔力問題は取りあえずこれでオーケーだな。

 熊のおっちゃんを信じて、いいアクセサリーが出来る事を期待しようじゃないか。


 短い交渉が終わり、俺が一息入れようとすると。

 いきなりシャツの襟首えりくびを引っ張られた。


「――おわっ!……っと」


 こんな乱暴な事をする人、一人しかいませんよねぇ。


「な、なにすんのさ……クラウ姉さん!」


 クラウ姉さんは俺の頭をつかんで強引にしゃがませ、首に腕を回し、その貧相ひんそうな……いや、スマートな身体を俺に押しつけて言う。


「ただであげるって……あれでいくらになると思ってるの?」


 こそこそっとだが、完全に圧を放ってくる姉。

 耳元でささやくその言葉は、完全に金の事を言っている。


「いや、資金なら半分を買い取ってもらった分で足りるし……ぐっ……苦しっ」


 力込めんなって!身体は俺の方がデカくなったけど、首は駄目だめだ!

 クラウ姉さんの言い分も理解できるけどさ、正直言って金には困っていないからいいんだよ。


「――その資金を元手に装備を買うんじゃないの?」


 それにも考えがあるんだよ、いいから離してくれって!苦しいし恥ずかしい!

 俺は、クラウ姉さんの腕を取り払って言う。


「痛いってば!分かってるよ、だけどそれを度外視どがいしにして……も充分に価値があるんだ、あの素材を使ってアクセを作って貰えるし、わざわざ他の素材を探しに行く手間もはぶけるだろ?」


 それも、クラウ姉さんだって分かってるはずだろ?


「……それはそうでしょうけど、いいの?ミオのお金になるのよ?」


 俺の……って、そういうことか。

 クラウ姉さんは、自分のお金に出来るならしておけって言いたいんだな。

 確かに、金ねんていつ無くなるか分かったもんじゃないもんな。

 だけど……今は。


「ああ、いいんだよ」


『――現状、ご主人様の全資金は一般町民の数倍です。多少の不利益ふりえきでも、損害は皆無かいむかと思われますが?』


 悲しい事を言ってやるなよ……一般町民さんたちだって必死なんだから。


「はぁ……分かったわよ、ミオがいいならお姉ちゃんは何も言わない……」


 プイッ――と、クラウ姉さんはミーティアとイリアの所に戻った。

 二人は商品を見ていたが、気になって視線はチラチラ感じてたよ。

 特にミーティアの。


 それにしても、久しぶりにお姉ちゃんぶって来たな……クラウ姉さん。

 うむ、まぁ悪くない。


「い、いいのかぁ?ミオのあんちゃんよぉ……」


 すまんね、熊のおっちゃん。

 あの人、過保護なんだよ。

 だから俺の老後まで心配して、たくわえておけって言いたいんだろうさ。


「ああ、平気だよ……さっきの話で通してくれ。んで、次なんだけどさ……」


 ニヤリと笑い、俺は言う。

 熊のおっちゃんは、引きりながらも。


「ま、まだ何かあんのか……えぇい!こうなりゃ何でも言いなっ!それだけ聞いても釣りが来るってもんよ!」


 話が分かる熊さんで助かるよ。

 こう言う所を見習って欲しいものよ、【叡智えいち】さん。


『……』


 だんまりを決め込む【叡智えいち】さんが何を考えているかは、この時の俺は知るよしもないが、そんな楽観的な考えの俺は……熊のおっちゃんに次の話題を持っていくのだった。

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