5-34【素材売却】



◇素材売却◇


 【叡智えいち】さんの無粋ぶすいなツッコミに脳内対処をしていると、熊のおっちゃんが言う。


「――おいよ、ミオのあんちゃん!全部……買い取りたいとこだったが、わりぃな……金がねぇよ」


「あ。いやいや、逆に申し訳ないっす……」


 熊のおっちゃんは俺が持って来た素材を買い取ってくれた。

 しかしその量は半分だった。

 なにせ全てが一級品だ……全部を買い取るには、残念ながらこの店では金が足りないらしい。


「――あ~いや!待ってくれ!やっぱり……金を借りて来てでもっ……ぐぬぬっ!」


 止めといたほうがいいぞ、おっちゃん。


駄目だめだっておっちゃん、そこまでしなくても」


 半ばあきれてしまいそうだ。

 いや、もうあきれてるかもな。


『――ですが、資金は重要なのでは?本来の目的も、資金の調達が先決の筈です』


 【叡智えいち】さん……この人に借金してまで金を用意しろと?

 それは鬼だぞ……俺は取り立て屋じゃないんだからな。


 【叡智えいち】さんの疑問を俺は苦笑いでスルーしつつ、おっちゃんには自重しろとうながす。


「う~ん、しかし……この素材は中々手に入らんのだぞ。他の店に入る事を考えるとだなぁ……グゥルル」


 獣人らしい獣耳をぴくぴくと動かして、おっちゃんがうなる。

 いやマジで熊のうなりだから……怖いって!


 口惜しそうに言う熊のおっちゃんの考えも分かるよ、俺の能力――【強奪ごうだつ】によって、最高級に進化した魔物のドロップアイテムは、どの店でも高価買取だった。

 ゲームで言えば、隠しダンジョンのモンスターがドロップするような物に変化しているんだからな、最終武器や隠し武器の強化素材になるような素材だよ。

 それを売りまくる俺……ひっでぇな。


「熊のおっちゃん、そこまでしなくても……俺もこんなに持って来て悪かったよ」


 貴重は貴重だ。どこの店だって欲しがる素材だし、金を用意してまで買い取りたいのも理解できる……どうやら、加工すれば相当な商品を作れるらしいし。


 ん?作る……?――そうか!!


「――おっちゃんっ!いい考えがある。俺の提案ていあんを飲んでくれれば、この残りはただでゆずるよっ!」


 俺はカウンター席に乗り出して、熊のおっちゃんに言う。

 すると、おっちゃんと……外野の少女三人が。


「なに!?」

「「「えぇっ!!」」」


 おっちゃんも、後ろの三人の女子もおどろく。

 そりゃそうだ……高級品を麻袋半分以上、ただでくれてやるって言ってんだからな。


 でも、それでもいいというくらいに、こっちにも見返りがある点を見つけてしまったんだよ……頭いいな、俺。


「おっちゃん。後ろの女子どもは置いといて、聞いてくれっ」


 やべ、興奮こうふんしてちょっと言い方悪かった。

 女の子たち……な。


「お、おお……なんだ?」


 おっちゃんは熊のような丸い獣耳を俺に向ける。

 いや、別に内緒話じゃねぇよ。


「……素材は提供ていきょう――って事で、受け取ってくれればいいよ。その代わり、作って欲しいものがあるんだ」


「――ほう、いったいなんだ?それは」


 目的を一気に達成できる宣言を、俺は熊のおっちゃんに言う。


「魔力を増幅、もしくは回復するアクセサリー……それを作ってくれれば、残りの素材は持ってっていい。どう?おいしいんじゃないか?」


 素材の中には以前の物も多少はふくまれているし、何かしらは作れるはずだ……多分だけど。

 そうしてくれれば、残りの素材は全部自分のものになる。

 釣銭つりせんの方が多いと思わないか?


「ふむ……うちにとっちゃあうまい話だが、いいのかい?ミオのあんちゃん」


「ああ。俺にとって素材は別に、大した問題じゃないんでね。だから頼むよ」


 なんとも贅沢な言葉だと、自分でも思うよ。

 聞く所に聞かれれば、怒られそうだ。


「……おっしゃ、分かった。任せてくれ……いいものを作らせてもらう。その代わり……本当にいいのかぁ?」


 熊のおっちゃんはうなずいてくれるが、若干不安そうだ。


「もちろんだって!依頼だと思ってくれよ、その報酬さっ」


 これでいいんだ。

 後でクラウ姉さんに何か言われそうな気もするけど、問題はイリアの強化なんだ。

 極論を言えば、成長・強化が達成できれば何でもいいんだよ。

 金に糸目は付けぬ……だからな。

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