5-33【イリア強化作戦4】



◇イリア強化作戦4◇


 総合商店市場……通商【ステラマーケット】に入り、俺たちが真っ先に向かう場所は、この大量の素材を売却する為の所だ。

 マーケットの中には沢山の店があるが、それぞれの店で買い取り価格が違うのは当たり前だよな……その中でも、以前俺が素材を売りに行った店があるんだ。


 その店はアクセサリーショップであって、素材はそのアクセサリーの加工などに使えるそうだ……まぁ、【スケルトン】の素材で作った装飾が何になるか、俺には想像できんけどさ。




 アクセサリーショップ【たかの眼】。

 無骨ぶこつな獣人のおっちゃん……ガドランダ・モルトイン。四十五歳。

 どこからどう見ても熊の獣人だと言うのが分かるほどの、大男だ。

 最初に見た時はビビったけど、話せば結構普通の中年って感じだったよ。


 ふふふ……思っただろ。

 【たかの眼】なのに熊なんかいっ!!……となぁ!


 いや……マジでごめん。


 アホな事を考えながら、俺たちは店内に入る。

 カランカラーンと、まるで喫茶店のようなベルが鳴り……店主が気付く。


「――お?おおっ!ミオのあんちゃんか!また来てくれたんだなっ!待ってたんだ」


 デケェ……十五になって更に身長が伸びて来てる俺だけど、この熊のおっちゃんにはかなう気がしない。

 2メーターあんだろ、この人。


「――うっす。熊のおっちゃん……また買い取り頼むよ」


 入店早々、俺の顔を見た熊のおっちゃんは嬉しそうに笑顔を見せる。

 うん、上から見下ろす笑顔が怖えよ。


「よっっ、と……今回はこんだけっ」


 ドッ――とカウンターに麻袋を置き、熊のおっちゃんは丸い瞳をかがやかせる。


「おほーーー!!」


 麻袋をあさり、素材をボコボコと取り出すおっちゃん。

 いやまぁ嬉しそうにしちゃってさ、まだ売るとは言ってないけど。





「す、すごい大きいですね」


「そうね、まさしく熊……って感じだわ」


「……可愛い」


「「え?」」


 キルネイリア、ミーティア、クラウの順番だった。

 おどろいたのは先の二人。

 クラウのぼそりとつぶやいた一言にだ。


「クラウ、もしかしてああいうおじさまが好み?」


「意外です。ミオのような美丈夫びじょうふが好きなのだと思っていましたが……」


 ミーティアとキルネイリアに畳みかけられるクラウ。


「――なっ!!違う!――私はただ、熊のぬいぐるみのようで可愛いって!!」


 クラウはぎょっとして、否定するが。

 別に大男が好きな訳ではない。


「え~?」


「怪しいです……」


 それでも、二人の視線はわざとらしくにやけている。

 意外な一面ではあっただろうが、ここまでからかわれるのかと……クラウは怒る。


「――ち、違うったら!変な印象付けないでっ!!怒るわよっ!?」


 そう言いながら、もう怒っているクラウだった。





 わんやわんや……


「す、すんません……」


 平謝りする俺も、熊のおっちゃんは。


「いやいや。構わねぇよ……この年になって若い嬢ちゃんに可愛いなんて言ってもらえんだ、獣人冥利みょうりに尽きるさ、ガハハハッ!」


 す、すまんおっちゃん……うちの姉が。

 ガドランダのおっちゃんは笑ってくれるが、これがまた怖い笑顔なんだよなぁ。


「は、ははは……」


 眼光するどく笑う熊の獣人に、俺は小動物の気持ちで愛想笑あいそわらいをしていた。

 いやいや……マジで怖いって、今にも食われちまいそうだ。


『――獣人は人間族を食べる風習はありませんが。どういった事でしょうか』


 おっと……知ってるって。例えだよ例え。

 俺よりも図体ずうたいがデカいんだぞ?言ってしまえば、前世の俺よりデカいんだ。


 【叡智えいち】さんはもう少しシャレを学んどけ。

 流暢りゅうちょうしゃべり方に人間らしい感情を持っていても、柔軟性とユーモアセンスは勉強した方がいいと思うぞ。

 うん、それがいい……その方が俺も、付き合いがいがあるしな。

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