5-31【イリア強化作戦2】



◇イリア強化作戦2◇


 二人の訓練は、何とも言えない地味なものだったのだが。


「では……いきますっ!ミーティア!!」


「いつでもいいわよっ」


 現在、次のフェイズに移行した所だ。

 内容は……イリアとミーティアの模擬戦だ。

 模擬戦とは言っても、イリアが宙に浮かせて動かす短剣を、ミーティアが弓で狙う……そしてその短剣を動かして、イリアがけると言うものだ。


「ふっ……!」


 右に左に、イリアは短剣を動かす。

 動きはかなりゆったりだが、それでも不自然な動きは少なくなってきたな。


「矢をるわよっ」


「は、はいっ!どう……ぞ!!」


 ブンブン両手を振り回して、宙に浮く短剣が踊る。

 華麗に舞う短剣とは打って変わって、下にいるイリアは必至な形相ぎょうそうだった。


「……」


 ミーティアは矢をえ、つるを引く。

 ミーティアの武器【魔導弓マギアロー】のにぎりにはガードが付いており、落下防止の役目もしているそうだ。

 まるで腕と一体化している様にも見えて、カッコいいよ。

 多分、盾にも使えるんじゃないかな。


「ふっ……!」


 イリアの集中が長くは持たないと分かっているからか、ミーティアは狙ってすぐに矢をった。

 矢は一瞬で標的の短剣に接近して、カツン――!とぶつかる。


「あっ!」


 イリアはそれに動揺するが、クラウ姉さんが。


「――そこから持たせられるようにしなさい!落とされても復帰させて!!」


「うぅ……はいっ!!」


 ス、スパルタだな……この人。

 昔からそうだった、この人は……練習の鬼だ。


 クラウ姉さんの大きな声で気合を入れ直したイリアは、フラフラする短剣を再度上昇させる。

 しかし、そこにミーティアがった第二射が直撃して。


「ああっーー!!」


 動く標的に二連続命中……動きはフラフラでにぶいとはいえ、ミーティアもよく狙うなぁ。流石さすが、エルフのジルさんから教わった弓術だ。


『――エルフは弓が得意……は偏見へんけんです。ジルリーネ・ランドグリーズは、剣技を得意としていた筈ですが』


 分かってるって。例えだろ?

 これで分かりやすい人だっているんだよ。なぁ?


「――もう一本も残ってるでしょっ!そっちはせめて五分持たせなさいっ!!」


 気落ちするイリアにクラウ姉さんが言う。

 もう目が怖いんだけど。


 それに、キツイだろうなぁ……今のイリアには。


「――うぅぅ、はい!!」


 ほら、イリア涙目じゃん。


「ミーティアも!もっと連続して撃ちなさい!出来るでしょうが!!」


「――えぇ!私も言われるのっ!?」


 自分まで言われると思っていなかったのか、ミーティアがおどろいていた。

 肩をビクッ――とさせて、呆気あっけに取られている。


「当然でしょ!ミーティアがやらないと、私がやらなくちゃいけなくなるんだからっ!つべこべ言わないでさっさとやるのっ!!やれ!!」


「「――は、はいぃ!!」」


 この鬼め……イリアをきたえる事だけじゃなく、クラウ姉さんはミーティアまで一緒にきたえようとしているらしいな。


『ですが、効率はよろしいかと思われます』


 まぁな。ミーティアの弓矢と、覚えたてのイリアの【念動ねんどう】は遠距離攻撃だ。

 俺の【無限むげん】や【極光きょっこう】、【煉華れんげ】なんかは攻撃方法も威力もガバガバで合わせにくいし、クラウ姉さんは光の魔法だ。

 戦闘タイプが同じ遠距離攻撃同士なら、確かに組み合わせとしては正しい。


「「あ」」


 今のマヌケな声は、俺とクラウ姉さんだ。


 俺がそんな事を考えていたら、イリアがぶっ倒れたんだ。

 ミーティアが五射目をった瞬間だったよ。


 矢は地面に刺さり、短剣はそのまま落下。

 イリアは背中からバタンと倒れ目を回し、ミーティアが駆け寄る。

 俺とクラウ姉さんも向かうが、ミーティアがこっちを見て首を振る。


 ああ、気絶してんだな……

 やっぱり……まずは訓練よりも、基礎体力と装備からかな。

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