5-30【イリア強化作戦1】



◇イリア強化作戦1◇


 キルネイリアとミーティア、二人の訓練が始まった。

 イリアは真剣な表情で集中し始め、短剣を浮遊させる。


 「ふぅっ……!」と息を止めて、目を見開いて宙に浮く短剣に視線を注ぐ。

 今は投げてはいない。地面に置いてあった短剣を浮かせただけだ。


「……う、うぅ……」


 クラリ――とするイリア。

 俺たちが訓練場へ来る前から練習していたらしいし、そのせいかな?

 あ……違う、息止めてたからだ!


『――キルネイリア・ヴィタールの魔力は、現状三~四回分の使用魔力しかありません。今もカツカツでしょう』


「イリアっ、大丈夫か?」


 【叡智えいち】さんの言う通り、イリアの最大魔力は極端に低いんだ。

 多分、一般人でもそのくらいの魔力の人は沢山いる。

 むしろそれよりも低い可能性の方が高いかな。


「だ、大丈夫です……少し、眩暈めまいがする程度なので」


「そっか。なら二人共、続けてくれ……無理はしないようにな」


 だけど、それが致命的なんだよな。

 これをどうやって伸ばすか、それが課題だ。


「はい」

「わかったわ」


 イリアは返事をして、再度短剣を宙に浮かせる。


「……うーん」


 ジルさんに習った時に俺も言われたが、体力と魔力は均等きんとうにするのが基本らしい。

 体力が有り余っていても、魔力が無くなれば動けなくなるし、魔力がめちゃくちゃあっても、体力が無ければ話にならないという事だからな。


 体力だけは、きたえればイリアでもどうにかなる。

 問題は――


『――キルネイリア・ヴィタールの最大魔力を増やす方法です』


 ねぇ……今、言おうとしたんだけど。

 【叡智えいち】さんも言う通り、問題は魔力と……そして武器だ。


「問題は魔力と、剣もだなぁ」


 落ちた短剣を見て、俺が言うと。


「武器は買った方が早いんじゃないの?」


「……かな」


 クラウ姉さんが言う。

 俺も同意だ、その為の素材でもあるしな。

 【ステラダ】には様々な工房があるが……その数ある店の中には、魔力を増幅させるアイテムもあるかも知れないしな。


「二人の鍛錬が終わったら、行ってみよっか」


「うん……って、クラウ姉さんも来んの?」


 胡坐あぐらで地面に座るクラウ姉さんを、俺は見る。

 付いてくる気なのかこの人は。


「当然。ひまだしね……」


 ひまって。

 興味きょうみ本位で付いてくんなよなぁ。


「――なに?」


 ジト目で俺を見上げてくる姉。


「……いや、なんでもないけどさ」


『――率直そっちょくに申し上げてしまえばいいのに』


 弟がどれだけ立場の悪いものか知らないのかこの【叡智えいち】さんは。

 それを簡単に口に出来たら、俺は今頃この人と対等に出来ているよ。

 後に産まれた時点で、すでに関係は完成してるのさ。


『それは、昔のご主人様が何もしようとしなかった結果では?』


 刺さるようなことを言いやがる、この能力。


「……ぐっ」


「ミオ?」


「ははは……なんでもないよ」


 この野郎……痛い所を突いてくるじゃないか。

 つい口に出てしまったじゃないか。

 そういうので反応しちまうだろ?やめてくれよ。


『――反応しなければいいだけです』


「……」


 はいはい、そうですか……俺が努力すればいい話だって言いたいんだな。


『――端的に言えばそうです。あと……出来れば素知らぬ素振りで返事を下さい。一人で話すのは寂しいので』


 お前本当に能力なの?


 人間味しか感じない能力、【叡智えいち】さん。

 もしかしたら、俺の周りの一番身近な奴になるのかもしれないな……このウィズって能力は。

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