5-26【叡智さん2】



叡智えいちさん2◇


 俺とトレイダは寮の外に出た。

 一度冒険者学校内に入り……イリアが校内にいない事を確かめると、女子寮に向かう事を決める……建物の陰でミーティアの姿に戻って、俺の代わりにイリアを呼びに行くミーティア。

 二度手間だよな……一度マジで話してみようか、ミーティアと。


『――それがいいと思われます。ミーティア・クロスヴァーデンの魔力はそこそこですが、あの変身道具の消費は馬鹿になりません。ですので、早期の助言を検討けんとうください』


 柱に背を預けミーティアを待つ俺に、脳内でウィズが言う。


「……俺、何も聞いてないんだが?」


『ご主人様の思考はウィズに直接伝達されますので、会話は不要です』


「……な、なるほど?」


 会話は要らないという事か。

 こんな感じで心の中で思っていれば、勝手に答えてくれるわけか。


『その通りです。よかったです、ご理解いただいて』


 おいこら、若干馬鹿にしてんだろ!?


『そんなことは――ありません』


 絶対ある間じゃねぇか!!

 普通能力がしゃべるとか言ったら、機械的な音声だったりして人間性だなんてないだろ!なんでお前はそんなに饒舌じょうぜつなんだ!

 しかもそんな綺麗な声で、あのポンコツに説教されているみたいで嫌なんだが!?


『――そんなことをウィズに言われましても。神に言ってください』


 神?神がお前の人格を作ったのか?

 となると、もう……一人しか思い浮かばないんだが、是非ぜひとも外れていて欲しいものだが。


『はい。【豊穣の神アイズレーン】です』


「……」


 やっぱりじゃねぇかぁぁぁぁ!!

 絶対あれだろ、アイズをもとに作られただろ!


流石さすがですねご主人様……パチパチパチパチ』


 「パチパチ」を言葉にするな。

 おもくそ馬鹿にしてんだろ……お前。


『――そんな事はありません。ウィズは十五年間、毎日のようにご主人様にお声がけをしておりました。身体と精神が均等きんとうに育ち、ウィズを使用しても壊れないほど成長したので、ようやくお目にかかる事が出来たのですから。手放しで喜ぶ事はあっても、爆笑することはありません……精々「クスッ」とふくみ笑う程度ですから』


 それを馬鹿にしてるって言うんじゃねぇのかよ。

 でも……十五年間?俺が転生してからずっとか……それは大変、なのか??

 そもそもこいつにそんな感情があるか分からんが。


『ご主人様、ミーティア・クロスヴァーデンと……クラウお姉さまが参りました』


 え……?お、ホントだ。

 あれ……それって【感知かんち】じゃないか?


「――お待たせミオ、ごめんね」


 預けた背を正し、ミーティアの所まで向かう。


「いや、待ってないよ……でも、なんでクラウ姉さんがいんの?」


 たずねに行ったのはイリアなのに。


 その答えは、眠そうなクラウ姉さんが答えた。


「……キルネイリアなら訓練場よ」


 あー、そう言えば……校内には行ったけど訓練場には確かめに行ってなかったな。


『――ウィズは何度も申告しましたけどね。ご主人様はミーティア・クロスヴァーデンとの会話に夢中で、無視されてましたが』


「え?」


「「へ?」」


「――あ、いや……それじゃあ、訓練場に行くか!」


 初めから聞いとけよって言いたいんだろ……?ごめんって。


『……別にいいですが。ウィズの有用性を、ご理解いただけましたか?』


 はい。すみませんね……とても有用なお方でよかったですよ。

 これからよろしくお願いしますよ……【叡智ウィズ】さん。

 そうして、俺たちは三人で訓練場へ向かうのだった。


『――四人です』


 るせっ!俺とミーティアとクラウ姉さんだっつの!!

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