5-24【ささやかだけど】



◇ささやかだけど◇


 クラウ姉さんとミーティアから受け取ったプレゼントを机に置いて、俺は部屋の簡易かんいキッチンに向かう。

 ワンルームで丸見えのキッチンだが、サイドテーブルとくっついていて、お洒落しゃれなバーに見えなくもない。


 そんなキッチンではミーティアがケーキの準備をしていた。

 わざわざ買って来てくれたらしい。

 【ステラダ】でもまだ砂糖は高い物なのに、奮発ふんぱつさせてしまったな。


 しかし、だなぁ……


「ねぇクラウ姉さん、何時いつまでいんの?」


 当事者の俺よりもケーキにワクワクしているように見える姉。

 しかしクラウ姉さんは、そんな俺の一言に声色こわいろを変えて返答する。


「――はぁ?」


 怖えんだって。


「……いや、だって寮に帰んないとだろ?」


「魔法で身を隠すからいいわよ」


 やけに簡単に言うじゃないか……【光聖の衣シャインベール】だっけ?光をまとって透明になる魔法。

 もしかして、何度もそれを使って来てます?


「いや、そういう事じゃなくてさ……ラクサーヌさんが待ってんじゃないの?」


「ラクサーヌ?あの子は一人が好きらしいし、余り干渉かんしょうはしないわ。おたがいにね……」


 ラクサーヌ・コンラッド。

 クラウ姉さんの相棒であり、南国出身の魔族の女性。

 魔族という事もあり、なにかと注目されている同級生だ。年上だけど。


「そういうもん?」


「そうよ。あんたたちが干渉かんしょうしすぎなの、よっっ!」


「――いでっ」


 バシンッ――と背中を叩かれた。

 俺とミーティアの事を言っているんだろうな。

 何も言い返せねぇよ、畜生ちくしょうめ。


 俺とクラウ姉さんがそうこうしているうちに、ミーティアの準備は終わり。

 ささやかだけど誕生日パーティーが開かれた。

 俺さ、本当は甘いもの……苦手なんだよな。


 こんなにしてくれてんだから、言えないんだけどさ。





 まぶしい――光で目がやられそうだ……なんだよ、急に。

 薄目で開けると、真っ白だった。

 雪が積もった深雪みゆきのような……銀世界かよ。


 あ――!あ~、そうか……また夢だな。

 これはあれだ、予兆よちょうだ……――能力の。


 いつの間に寝たんだろう……昨日は楽しかったな。

 プレゼントも貰ってケーキも食べたし、朝近くまでしゃべってた。

 そんでもって、気が付いたら……今だ。


 なんなんだよ……今度はどんな能力やつだ?

 前回は――【煉華れんげ】と【破壊はかい】だったんだよな。

 俺は【破壊はかい】の異常な威力に怖くなって、それ以降能力を目覚めさせるのをしぶってた……まぁ、日和ひよったんだよね。


 この前、無理矢理に持っていない能力(【念動ねんどう】)を目覚めさせた時、物凄い疲労感に襲われた事を思い出す。

 遠征えんせいしてなかったら、多分数日は寝込んでただろうな。


 で?お前は……いったいどんな能力なんだよ。

 こんな風に、まるで意思があるようにさ、宿主である俺にせっついてくるなんて、とんでもない能力じゃないか?


『――気付くのが遅いのです。ご主人様……この寝坊助ねぼすけめ』


 ……。……。……。


 ――え?……え~っと、気のせいだよな?

 なんだか物凄く綺麗な声で、ご主人様って言われた気が……しかもその後に寝坊助ねぼすけって言われた?


 あはは……流石さすが夢だな。


『気のせいでも夢でもはありません。私の名前は――【LostロストChildチャイルドofオブWisdomウィズダム】です。ウィズとお呼びください』


 ウィズ……だって?

 いやいやいや……能力がしゃべるかよ。

 これは夢だし、きっと都合のいい展開に決まってる。


 聞かなかったことにしよう、うん。そうしよう。

 ということで、二度寝するので起こさないでください。


『――ちょっと、聞いていますかご主人様っ!ご主……っ!様……っっ!!聞い……○×△□※っ!!』


 あー聞こえない。な~んも聞こえない。

 なんかすげぇ小言を言われてる気しかしないけど。

 俺は取りあえず……ガン無視を決め込む事にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る