5-23【思えば初めてかもしれない】



◇思えば初めてかもしれない◇


 俺は……けっして自分の誕生日を忘れていた訳じゃないぞ……日付も変わっていたし、まさか時間が過ぎてからも祝ってもらえるなんて、誰が思うかよ。

 少なくとも俺は思わなかったんだ。

 普通に過ごして、いつの間にか年を重ねていく。

 それでいいと思ってたからさ。


 でも……なんだかドキドキしてきた。

 クラウ姉さんがわざわざプレゼントをくれたのも意外だったしな。

 だってこの人、プレゼントって言ってキスしてくるような人だぞ?


 つっても、それは八歳くらいまでだったけど。

 そこら辺からは、レイン姉さんが止めに入ってくれていたんだよな。

 まぁ……甘んじて受けていた俺も俺だよな。流され系かよ。


 そんな昔の誕生日を思い返しつつ、俺は準備をするミーティアに言う。


「えっと、ミーティア……も、何かを?」


「う、うん!少し待ってね」


 声が上擦うわずってるな。

 俺に負けじと緊張しているっぽいぞ、これは。

 ミーティアは何か荷をいていた……小さな包みだけど、その中には縦長のケースが入っていた。


 なんだ……アレ。


「お、お待たせっ……は、はいこれっ!お誕生日おめでとう、ミオ!」


 顔を赤くし、上目遣いで俺を見上げる年上の少女。

 その可愛らしい仕草しぐさに、俺は何故なぜか。


「あ――ありがとうございますっ!!」


 なんで敬語になってんだよ!

 緊張してんの丸分かりじゃないか……ほらぁ!クラウ姉さん笑ってんもん!


 そのケースは縦に十せんちもない物で、とても軽かった。

 俺は気を取り直して、ミーティアに問う。


「開けてもいいかな?」


「も、勿論もちろんよっ」


 なんだろうなコレ。地球で言えば、万年筆まんねんひつとかが入っていそうな感じだけど。

 俺はゆっくりとひもほどき、パカリとケースを開ける。


「あ――これって……」


 めちゃくちゃ細かい模様もようだった。

 紐をくくる穴もあって、その薄い物は何かにはさめそう。

 もう分かる……これはしおりだ。


「どう、かな……?クラウと一緒に選んだんだけど……その、気に入らなかったら」


「――そんな事ないって!嬉しいよ勿論もちろんっ!これ、しおりだろ……?最近よく本を買ったり借りたりしてるから、すっごい助かるよ!!」


 これはマジで助かる……しかもなんだか非常にお洒落しゃれだ。

 俺じゃあ絶対に選ばない高等センスに、自然と笑みが出そうだ。

 うん……これは嬉しいなぁ。

 こういうのがプレゼントだぞ、クラウ姉さん。


「本当にっ!?よ、よかったぁ……」


 俺の言葉に、胸をで下ろすミーティア。

 「ほっ……」と息をき、どうやらミーティアの緊張も緩和かんわされたようだ。よかったね。


 しかし、俺の中で疑問が。

 だってこのしおり……なんだか高そうだ。


「いや、でもこれさ……高いんじゃ?」


 普通しおりってのは、紙とかで充分な物だろ?

 それが何だろうこの素材、紙のように薄いけど……しっかり硬い。

 地球で言う、機械に入っているような金属プレートみたいな感じかな?


「値段はいいでしょ、細かいこと気にするんじゃないわよ」


「で、でもさ」


 クラウ姉さんがジト目で言う。

 なんだかあきれてる気もする。


 うっ……確かに無粋ぶすいかぁ。


 そんな俺に、ミーティアは笑いかけてくれる。


「ふふ……そんなに高い物じゃないから気にしないで?ミオが何が欲しいか分からなかったし、その……凄く悩んだけど、受け取ってくれたら嬉しいな……」


 「えへへ」と、ひかえめに笑うミーティアの笑顔で、どれだけ考えたのかが伝わった。

 きっと、俺が居ない数日の間も……考えていたんだろうな。

 だから、そうだな。

 何も言わずに受け取った方がいいに決まってる。


「うん。ありがとう!大事に使わせてもらうよっ」


 俺もニカッと笑い、ミーティアを見る。

 思えば、村の人以外から貰った初めての誕生日プレゼントだ。

 それがミーティアから貰ったものだと思うと……なんだか特別なものに思えて、俺は内心泣きそうだったのだ……泣くのは我慢がまんしたけどさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る