5-22【ほらね】



◇ほらね◇


 部屋に入った瞬間におどろかされて、普通にビックリしたんだが……何をしてんだよこんな深夜に、二人して。


「な、なにしてんの?」


 突然すぎて、そんな事しか言えんよな。

 当たり前だって、おどろかされるような事をされる記憶も覚えもない。

 いや……うん、考えても……ないよなぁ。


 そんなキョトンとする俺に、クラウ姉さんが両手を頭の後ろに組んで言う


「――ほらね」


 は?なにがだよ。


「う、うん……クラウの言った通りだったわ」


 少しだけ残念そうに、ミーティアが笑う。


「だから……何が?」


 ミーティアまでクラウ姉さんと似たような態度で俺を見る。

 いったい何だってのさ。


「――ミオ。今日……正確には昨日、何の日?」


 クラウ姉さんが言う。

 今日、昨日?……日付が変わってって事か?


「えっと……【ステラダ】に帰還予定の日、だけど?」


「――ほらね」


 ジト目で俺とミーティアを交互に見るクラウ姉さん。


「……うん」


 なんだかあきれられている。

 ごめん……もう率直に言ってくれないかな?


「なんだよ、二人でこんな待ち伏せみたいにしてさ、本当におどろいたんだぞ?」


 俺は疲れも忘れて、二人の態度を不審ふしんに感じていた。

 第一、俺が予定通り帰って来れるかも分からないのに、何の日……だなんて言われてもさ、予測も出来ないって。そうだろ?


「はぁ。我が弟ながら……」


 頭をかかえて、クラウ姉さんは顔を赤くしている。

 あれ……恥ずかしいの?なんで?


「なんだっての……いったい」


 そこまで言うか?

 その後のセリフは「情けない」しかないだろうが!


「ミオ、本当に分からないの?」


 俺の正面に立って、ミーティアが言う。

 いやいや……なんでそんなに悲しそうな顔をするんだよ。

 あれ……?も、もしかして……俺が可哀想かわいそうなのか?これ。


「う、うーん……なんだ?」


 ちょっと待とう、なんか予定あったっけ?

 精々しれっと十五になったくらいで……ん?


 十五……十五歳。誕生日……あっ――!!


「――た、誕生日かぁっ!」


 思い出したかのような、まぁ実際そうなんだけど……そんな俺のマヌケな顔を見ながら、クラウ姉さんは言う。


「自分の誕生日忘れるお間抜けさんには、これで充分ね。ほれっ」


「――お、っとと……なにこれ?」


 クラウ姉さんが投げて渡したのは、四角いガラス細工だった。

 薄水色のガラスの中には、キラキラと光る砂と水が入っていた。

 なんだこれ……どうやって閉じ込めたんだ?継目つぎめ処理の跡がないが……


 俺はそのガラス細工を振ってみる。

 やっぱり砂も入ってるし、サラサラしてて流れる様が見てみたかったんだ。


「おお、すげぇ……綺麗だっ!」


 部屋の明かりを通して砂がキラキラ揺れると、水がそれに反応してライトのように明るくなった。


「――それ、【魔水蟲ますいちゅう】って言う、魔力に反応するプランクトン――じゃなくて、見えないくらいに小さい虫の死骸が光っているんだってさ。って……なにその目」


「いや……」


 げんなりだよ。それ言わなくてもよくないか?

 せっかく綺麗なのに台無しだよ……まぁでも、嬉しいかな。


「ありがとう、クラウ姉さん……嬉しいよ」


 これは部屋に飾って置こう。

 どうやら光も長持ちするっぽいし、照明にもいいよな。


 ん?……クラウ姉さんがくれたって事は……もしかして、ミーティアも?

 俺が期待の眼差し送ると、ミーティアはいそいそと自分の机に向かった。

 どうやら、頂けるようだ。

 あ、あれ……なんだか緊張するんだが……?

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