5-20【贈りたい物と欲しい物の違い】



◇贈りたい物と欲しい物の違い◇


 ミオが好きな物は何だろう。ミオの欲しい物は何だろう。

 好きな食べ物は?好きな色は?好きな言葉や好きな歴史、好きな景色や好きな動物……なんでもいい、なんでもいいのに……私は何も知らないんだな。


「……」


 真剣そのもので、私は最後に立ち寄った店で吟味ぎんみする。

 その様子を、後ろで腕を組んで見守るクラウは……たなに置いてある一品を手に取り言う。


「私はこれにしようかしら」


 適当てきとうに選んだとしか思えないその仕草しぐさに、私はぎょっとする。


「――え」


 信じられない物を見る様なそんな目で、クラウにその視線を送ると。


「な、なんて顔してるのよ……」


 どんな顔だったのだろう……自分じゃ確認出来ないけれど。

 引き気味のクラウは続けて言う。

 金髪をクルクルと指先でいじりながら。


「ミーティアが何を求めてるか分からないけれど、ミオなら何でも喜ぶわよ。あの子は昔から欲がないからね……好き嫌いを見せないし」


 ええ……なんの為の今日なの?


「あ、姉のあなたがそれじゃあ……私が知る訳ないじゃないのっ!」


 クラウがヒントをくれると思ってたのに!


「それはそうね。お姉ちゃんなのに弟の事を知らないなんて、失格よね」


 なんでそうなるのぉ~!

 違うから、そういう意味じゃないよっ!


「そ、そう言う意味じゃないけど……」


 そんな事を言いたいんじゃなくて、私は――


「でもね、ミーティア」


 急に……ガラリと雰囲気ふんいきを変えて。


「え?」


 クラウは、持っていたその四角い透明なガラスの飾りを私に持たせる。

 透明なガラス細工……中には砂と水が入っていて、揺らすとキラキラとかがやいていて綺麗だった。


「ミオの欲しい物なんて、直接聞かない限り分からないわよ。それにやっぱり、欲のない子だから、“何でもいい”とか言うに決まってるんだから」


 確かに言いそうだけど。

 それが一番困る。


「でも、それじゃあ……何をプレゼントしたらいいかだなんて」


 分かったものじゃないわ、それでは意味がないの。

 私は、ミオに喜んでもらいたくて。


 クラウが、シュンとする私の頭に……ポンと手を置いた。


「馬鹿ね。だからなんでもいいのよ……それこそこんな、訳の分からない置物でもね」


「ク、クラウ……」


 そ、それはそれで……店の人に失礼では?

 冷静な部分も私には残っていたようで、クラウの言葉のとげが刺さるであろう店主を見る。


 へ、へこんでいるわ……ガックリと。

 しかしクラウは、そんなこと一切気にせず。


「ミオは何でも喜ぶわ、それは確実。子供の頃に貰った貝殻のアクセをさ、今でも大事に持っているような子よ?」


「あ……それって」


 見たことがある。最近は身に着けている所を見なくなったけど、ミオの机にはその貝殻が入れられたケースが置かれていたはず。

 あれって、そんな昔に貰ったものだったんだ……意外。


「物持ちがいいのよ。まぁ貧乏性とも言うけれど……なんにせよ、ミオは何を受け取っても喜ぶわ。ミーティアに貰ったのなら、なんでもね」


 その言葉に、私は最近のミオの行動を思い返す。

 彼は最近、出かけて来ては本を持ち帰る。


 図鑑や歴史の本……魔物図書で借りた物や店で買った物、様々だ。


「――あ」


 思い浮かんだのは……しおりだった。

 この店にもあるだろうかと、私は視線を彷徨さまよわせる。


「……えっと」


 クラウが、「決まったみたいね」と笑っていたが……私はもう視界に入っていなかった。

 いくつか視線を行ったり来たりさせて、辿たどり着く。

 金の縁取ふちどりがされた、極薄の板……紙のように薄いが、硬く頑丈だ。

 上部には穴があり、そこに糸や紐を通すのだろう。


「かわ、いい……」


 これにしてみようかしら。

 これなら、無難に喜んでもらえるかもしれないし……で、でも。


「……う~ん」


 私とにらめっこするしおりの間から、クラウがにゅっ――と顔を出す。


「まーた考えてる。もう直感にしなさいよっ!店主!!これを包んでっ」


「――え!?」


 バッ――と、クラウが私が持っていたしおりを取る。

 そ、そんな乱暴なぁ……!


 しかし、グダグダな私の考えは……このクラウの進取果敢しんしゅかかんな言葉で決定されて……こうして購入を余儀よぎなくされたのでした。

 本当にミオが喜んでくれるだろうか……私はそんな不安を胸に抱きながら、学生寮に帰るのだった。

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