5-18【プレゼントを探しに1】



◇プレゼントを探しに1◇


 【ステラダ】にある北東部……富裕層向けの区画。

 その場所に、【クロスヴァーデン商会】会長、ダンドルフ・クロスヴァーデンの家、つまりミーティアの実家がある。


 ドタドタバタバタ――!!


「お、お嬢様っ!!」


「――ごめんジルリーネ!私、もう行かないとっ!!」


 階段上からミーティアを見下ろして、あせったように言葉を掛けるのは……ジルリーネ・ランドグリーズ。

 この家のお嬢様、ミーティア・クロスヴァーデンの専属護衛だ。

 銀髪は汗でひたいに張り付き、疲労感でエルフの長い耳が垂れていた。


 一方ミーティアは、移動しながら上着を脱いで投げ捨てる。

 なんともお行儀が悪い事だ。

 しかし、それには大きな理由がある。


「行くって……一体どこにですかっ!まだ旦那様とのお話が――」


 ミーティアは、ミオとは別行動だった。

 遠征に近い依頼サポートで出払っているミオとは打って変わって、ミーティアは家の用事で忙しくしていたのだが、それもとうとう限界である。


「ホントにごめん!クラウと約束があるからっ!それじゃ!!」


 ババッ――と、スカートまで脱ぎ捨てる。


 なんとミーティアは、脱いだ服の下にもう一枚服を着ていたのだ。

 初めから用意していたのだろう……用意周到な事だ。


「お、お嬢様ぁ!?……い、行ってしまった……」


 階段を降りるジルリーネ。

 ため息をきながら、汗をぬぐう。


「それにしても、クラウとの約束?旦那様とのお話も身が入っていなさそうだったし、自分の将来の事だという自覚はあるの……?ミーティアお嬢様……はぁ……」


 ミーティアが脱いでいった服を持ち上げて、もう一度ため息をくジルリーネ。

 ミーティアが父ダンドルフと話していたのは、自分の将来……結婚の事だ。


 それをないがしろにしてまでする約束とはいったい何なのか、ジルリーネにはまったく理解できなかった。


「――お嬢様に聞いた話の事もあるし……少しジェイルにも話しておくことにするか」


 ジルリーネは、ミーティアから最近の事柄を聞いた。

 冒険者学校での出来事だ……ミオとクラウに速攻でバレた事や、友達が出来た事、そしてポイントの減点をされて、罰を受けた事。

 入学して二ヶ月とは思えない内容だった。


 別に怒るつもりも無かったが、ミーティアはジルリーネから怒られると思っていたらしい。

 確かに、バレない様にしろと言ったのは自分だが、あそこまで怯えずともいいだろうにと、ジルリーネは思った。


「……フフッ」


 その時のお嬢様の顔を思い出して、笑ってしまう。


「それにしても、ミーティアお嬢様もお転婆になったものだ……フフフッ」


 そう言って、ジルリーネは部屋に戻る。

 部屋ではダンドルフが待っているはずなのだ、行ってしまったミーティアを。


 なんて説明しよう……そんな事を考えながらも、ジルリーネは嬉しそうに……クスリと笑うのだった。





 屋敷から出た私は、急いで待ち合わせ場所に向かう。

 ここまで急いでいる理由……大事な話を無視してまで来た理由があるからだ。


 今日……夜にはミオが帰って来る。

 その前に、どうしても用意しておきたいものがあったの。


「――クラウっ!お、お待たせ」


 私が急いで来たのは、【ステラダ】の商業区画。

 余所行よそゆきの服を着て、親友と待ち合わせ……なんだか普通の女の子のようで緊張するわ。


「遅い……って言おうと思ったけど、全然待ってないわ。私も今来たところだから」


 なにそれ、格好いい。


「そっか、よかった」


 ホッとする……怒られたらどうしようって、思ってたから。

 息を整えて、クラウに笑顔を見せる。

 クラウはやれやれと言った顔をしているけど、どうしてだろう?


「さ、それじゃあ行きましょうか……ミオの誕生日・・・プレゼントを、買いにね」


「うんっ!」


 そう……帰って来たら、彼は十五歳だ。

 今まで、タイミングが合わなくて中々機会が持てなかった。


 でも、出会ってから二年半……私は、初めて彼の誕生日を祝う事が出来る。

 だから盛大に、おめでとうと言ってあげたいの……自分の話よりも、ずっとずっと――大事だから。

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