5-17【村を思い出して】



◇村を思い出して◇


 筋肉痛のイリアを部屋に戻し休ませて、俺は自分の部屋に戻った。

 借りた部屋は二部屋だ。

 俺とロッド先輩の一部屋と、そしてイリアの一部屋だ。

 女の子だしな……ロッド先輩の配慮はいりょだ。

 多分だけど、イリアがメイドとして来ていたんだったら、ロッド先輩とイリアが同じ部屋だったと思う。


「と……先輩はまだ戻ってないのか……意外と忙しいな、あの人」


 ロッド先輩は食事を終えたあと、明日の馬車を予約しに行ったのだが、まだ戻っていないようだ。

 俺はベッドに座り、先程食べた果実を思い出す。


 【ミリガー】か……見た目は完全に林檎りんご、味覚は檸檬れもん

 だけど、塩を振って西瓜すいかのように食えば……味は林檎りんごになる――おかしな果実だ。でも、面白い。

 この町【ポラ】でしか採れず、どこにも出荷してはいない点を除けば、普通に売れそうなんだけどな。


 俺は農家の息子として、その果実が収益しゅうえきになるかを考えていた。

 この安宿でサービスとして出されるくらいだ、値段はそんなにしないはず。

 そもそも、この町でしか買えない理由はなんだ?


 【ミリガー】農家が少ないとか、収穫量の問題とか、考えられることは多々あるが、年中採れるとイリアも言っていたし、その線はない。

 でも、塩をかけて味変が出来るのは……売れると思うんだよなぁ。

 勿体ない……折角せっかく名産に出来そうなのにさ。

 鉱山もすたれて来てるのなら、こっちに切り替えればいいのにな。


 村では今頃、夏前の野菜の最終調整を始めた頃だろう。

 【ステラダ】にも野菜をおろしているのだから、食べる機会もあると勝手に思っていたが……しかし【豊穣の村アイズレーン】の野菜は、思いのほか人気だったらしく、俺はまだ食えていない。

 思い知らされたよ……うちの野菜、美味うますぎたんだ。

 他の所の野菜が食えなくなりそうなほどに。


「ふ……あぁぁぁぁ~」


 村の事を考え始めたら、急に眠気が。

 なんだろう、故郷と言うものは……リラックス効果でもあるのだろうか。


「……知らない野菜や果物、結構あるんだな」


 村に居ただけでは、知る事はなかっただろう。

 【ステラダ】にも珍しい物は沢山あるさ、それこそ【スクロッサアボカド】のような、様々な町や村から入荷している商品だな。

 この【ポラ】の町のから【ステラダ】までは結構ある。

 【豊穣の村アイズレーン】よりも遠いんだよ……だけど、俺が道を整備すればどうだろう。


「う~ん……今は無理だけど、余裕が出来たら挑戦してみたいな。村でも、新しい野菜とか、栽培さいばいしてんのかな……」


 気にはなるよやっぱり……野菜の栽培さいばいは俺も力を入れてたし、共同経営の【スクルーズロクッサ農園】も人数が相当増えた。

 人が増えればトラブルも増える……解決するのは経営者である父さんたちだ。


「まぁでも、それでも俺を送り出してくれたんだもんな……」


 半強制的に冒険者学校に来た俺だが、もしあのまま村にいたら……きっと停滞ていたいしていただろう。

 やれる事をやりつくせば、同じ作業の繰り返しで生活をサイクルさせていたに違いない。

 そう思えば、苦労や自問自答、迷いながら進む冒険者学校は非常に刺激的だよ。

 ド田舎だけど、村が嫌だったわけじゃないからな。


 新しい出会いや学びもあって、ようやく異世界を実感することも出来た。


「……ねむ」


 ようやく始まった異世界での転生物語りが、前世を退屈たいくつに過ごしていた俺には、何よりも得難えがたいものだったと……俺は思い始めていた。


「……すぅ……すぅ」


 いつの間にか眠りに入った俺は、こうして十四歳最後の日を過ごした。

 そう……【ステラダ】に帰れば、俺は十五歳だ。

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