5-16【ポラの町の夜2】



◇ポラの町の夜2◇


【ミリガー】と呼ばれる、林檎りんごによく似た檸檬れもんのような味の果物。

 イリアは、俺の持つソレに白い顆粒かりゅうのようなものを振りかける。


「あ――!」


 フラッシュバック――この光景に、俺は前世の思い出がき上がった。


(これ……西瓜すいかだわ)


 この顆粒かりゅう粗塩あらじおだ。

 そしてこの食い方……だよなぁ。

 完全に夏の定番、西瓜すいかだよ。


 わぁ……もう混乱するがな。

 見た目は林檎りんごで味は檸檬れもん、そしてやってる食い方は西瓜すいかときた。


「どうぞ?美味しいですよ?」


「う、うん。いただくよ」


 と、なると……味はどう変わる?塩レモンのような味か?

 俺は混乱しそうな頭で、それでもとりあえずかじって見る。


 シャクッ――!モグモグ……


「こ、これは……!!」


 程よい酸味さんみが口一杯に広がる。

 しかし先程のような眩暈めまいがするような酸っぱさではなく、甘味が引き立つようなアクセント。


「……いや、これって、林檎りんごに戻った……?」


 美味い――美味いのだが……見た目は林檎りんご、味は檸檬れもん、行動は西瓜すいか、その行動を試した結果、味が変わった。

 その変化した味は……林檎りんごだったのだ。


 ちょっと待ってくれないか。

 脳がバグりそうなんだが。


「……どうですか?」

(りんご?不思議だけど、かわいいかも……)


 イリアが首をかしげながら言う。

 多分だけど、俺のリアクションがおかしいんだよな。


「うん、うまいよ……この町の名産品なんだっけ?」


 俺は自分がかじったあとを見ながら、感想を言う。

 美味いのは事実だ……ただ、転生者である事で頭がおかしくなりそうなだけで。

 クラウ姉さんとかにも試して欲しいものだよ。


「はい、年中採れるものですよ。でもこの町の人たちは、かたくなに他の町に出荷しない事で有名です……こんなにおいしいのに」


 見た目は林檎りんごだけど、この世界では名前が違う。

 この【ミリガー】は味が檸檬れもんだから、混乱しそうだけど。

 うちの村で育てている【メット】とか【ボォム】のような、日本で売ってる一般的な野菜もあるんだ。

 ちなみに【メット】と【ボォム】はトマトとキャベツな。


「へぇ、それじゃあ……この町でしか食えないのかコレ……あむっ」


 シャク――


「視覚と味覚と行動で、全部バラバラの食べ物の情報だからさ……めちゃくちゃ混乱したよ」


「そうなんですか?」


 イリアは不思議ふしぎそうに言う。

 この世界の人からすれば、これが普通なんだもんな。


「そうなんだよ。一番先に見た目で“甘い”って思い込んでいたからさ、檸檬れもんの味だからマジでビックリした」


「れもん?」


 聞きなれない言葉に、イリアは聞き返す。


「――あ」


 やっべ。檸檬れもん林檎りんご西瓜すいかも、この世界では名前が違うんだよな……同じものがあるかもまだ分からんけど、普通に会話で使ってしまった。


「あーごめん、図鑑で見たんだよ。確か……東の国だったかなぁ?」


 と、とりあえず誤魔化ごまかしておこう。

 油断するとこれだよ。

 まさか食い物で転生者のボロを出しちまうとは。


「わぁ、そうなんですね!ミオは物知りですから、勉強になります!」


 そうかい。それはよかったよ。


「ところでイリア……あのさ」


 俺は、地味~に気になっていた事を聞くことにした。


「なんでしょうか?」


「いや……筋肉痛は大丈夫か?」


「――え」


 思い出したかのように、イリアの表情がくもる。

 分かる……分かるよイリア。

 すっかり忘れててもさ、言われると途端とたんに痛くなるんだよな。


「……あはは、それじゃあ戻るか。部屋まで連れてってやるからさっ」


 笑顔まで固くなっちゃって……思い出させてすまん。

 でも、話題をらしたかったんだ……勘弁かんべんな。


「す、すみません……」


 プルプルと震え始め、顔を青くするイリア。

 そんな彼女を、俺は部屋に連れていくのだった。

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