5-13【冒険者の研鑽】+用語10



◇冒険者の研鑽けんさん


 翌朝――


 俺はめちゃくちゃ疲れた顔で荒野にいた。

 あの後……自分のテントに戻った俺だったが、寒気と脂汗、魔力の急激な低下で死にそうになっていたんだ。

 恥ずかしくて、二人には言わなかったけど。


 まさか【譲渡じょうと】の反動が俺に来るとは思わなくてさ……勘弁かんべんしてくれよ。

 しかもここまでの反動が来るとは思わなかった……これじゃあ、能力を覚えたとしても、誰かにポンポンあげたりは出来ないな。


「スクルーズっ!そっちだっ!!」


「――お!はいっ!!」


 やっべ……ボーっとしてた。

 今戦闘中だったんだ。


「――【石の鉄槌ストーンハンマー】!大っ!!」


 投げた石は前日よりも大きくなり、接近してきた【スケルトンウォリアー】を数体まとめて潰す。


 ドッスゥゥゥゥゥゥン――!!


「いよしっ」


 あぁぁぁぁぁぁ、だるい!!マジで身体が重い!

 魔力は寝て回復したけど、この疲労感はなんだよ……【譲渡じょうと】を甘く見た!人に能力を与える神のような能力……名前に反して物凄い事してんだもんな。


 そりゃそうだよ、考えろ俺の馬鹿!


「――平気か?スクルーズ」


「すいませんっ、大丈夫です!」


 この荒野に来るまでも結構時間をかけている。

 評価は気にしないが失敗は出来ない。

 これもグレンのオッサンからの依頼だしな。


「……ロッド先輩たちの方はどうですか?」


「……ああ。あんな感じだ」


 ロッド先輩は指を差す。

 その先には、【スケルトンウォリアー】の残骸ざんがいが無数に転がっていた。


 そして更にその先には……黄緑色の髪を風になびかせる少女が。


「――お~……」


 残骸ざんがいを踏みつけ、空を見上げるイリア。

 その周囲の【スケルトンウォリアー】の残骸ざんがいは……イリアがやったものなのだ。


 そして……空に浮かぶ、二本の剣。

 ゆっくりとシュルシュル回って、やがてイリアの足元に突き刺さる。


「と、飛んでたなぁ……」


「そうだな。まさかここまで動けるようになるとは」


 ロッド先輩もおどろいている。

 説明的には……覚醒したって言ってみた。

 ちょい無理矢理な感じもあるけど、冒険者にはよくある事らしいからな、戦闘中に覚醒とかさ。

 イリアにもそれがあったって不思議ふしぎじゃないんだ。

 例えハーフエルフだろうが、さ。


「……」


 ロッド先輩は思い出してる感じでイリアを見てる。


 戦闘開始から約数分で、イリアは【念動ねんどう】を発動した。

 魔力をまとわせた武器を投げ、それを宙で操り……骨の魔物を撃退したんだよ。

 それが……【念動ねんどう】だ。


「……」


 空を見上げて、イリアは何か感動したように目元をぬぐった。

 よく初っ端から使えたな……偉いぞイリア。


「スクルーズ。お前――いったい何をした?」


 おっと、するどい。


「……何もしてませんよ。少し、話しただけです。イリアがつかんだんですよ……自分でそのチャンスを――って!さっき覚醒で納得してたじゃないっすか!」


「お前が怪しい」


「違いますって……目覚めたんすよ、イリアが……想いをかてに」


 そうさ。俺たちと出会ったのだって、イリアの運命だからな。

 俺は、少しだけアシストしただけ……それでいいんだ。


「……そうか。ならもう聞かん……だが、キルネイリアを今後も頼むぞ……俺の姪だからな」


 なんすかそれ……言われなくても守るよ。

 あと、自分で守ってやれよ叔父さん。


「――ミオっ!ロッド坊ちゃんっ!」


 一転、振り向いたイリアは笑顔だった。

 こちらに駆けて来るその姿は、もう何も出来ない少女ではない。


 キルネイリア・ヴィタールは、こうして冒険者を目指して一歩を踏み出したんだ。

 あとは……研鑽けんさんを重ねていくだけだ。

 勿論もちろん……俺もな。




 ――――――――――――――――――――――――――――――

・【澪から始まる】用語その10

 【譲渡じょうと】。正式名称不明のミオの能力の一つ。

 初期の頃に使えるようになった能力だが、ミオは現在まで使用してこなかった。

 理由は様々だが、使える相手がいなかった事が一番の理由だ。

 名前から分かるように、その効果はゆずり渡す事が出来るようになる。

 渡せるものは多岐たきに渡るが、主には魔法や能力である。

 ミオが現在所有している能力を渡す事が出来るが、その代償は大きく、魔力の大量消費に始まり、疲労感や脱力感、眩暈めまいに頭痛などの症状が出る。

 ゆずり渡した魔法や能力は、ミオの中から完全に消失し、ミオは二度と使えない。

 しかし、一切の才能が無かったキルネイリアに能力を強制的に習得させるなど、非常に強力である。

 やっている事だけを見れば、能力をさずけると言うその行為。

 それは女神の転生の能力付与と変わらないという……驚愕きょうがくの力と言えよう。

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