5-12【譲渡4】



譲渡じょうと4◇


 能力――【念動ねんどう】。

 正直言って、俺には必要のないものだった。

 だからこの能力をイリアに渡すってわけじゃないけど……俺のチート能力――【無限むげん】で、数値をいじれば似たような事が出来ると思ったんだよ。


 【念動ねんどう】……って事は、その名の通り念動力だ。

 念じて物を動かす力、超能力サイキックかな。


 俺はこれを、実はイリアの為に狙って獲得したんだ。

 きっかけは、ミーティアに聞いたクラウ姉さんとの訓練の内容だった。


 イリアは短剣の二刀流と言うバトルスタイルだが……その訓練中、イリアはクラウ姉さんに向かって剣を投げたらしい。

 それも……物凄いコントロールで。

 結果的に命中はしなかったらしいが、それは武器になると俺は考えたんだ。


「さてと、どうだ?」


「え?」


 気付かないだろ?

 もう送ってるんだぞ?実はしれ~っとな。

 現在……八十パーセントってところだ。


 もうその力の片鱗を把握はあくしてもおかしくはない頃だと思うんだけど……ダメかな?


「――あ。これって……」


「お!来たかっ!?」


 イリアはおどろきに目を開けた。

 咄嗟とっさに開けてしまったんだろうが、いや……もう大丈夫なのかな。


「――【念動ねんどう】?」


 教えていないのに、イリアが能力名を当てた。

 それはつまり。


「そうっ!よかった……【譲渡じょうと】は成功してるな」


 よし、成功だ。


譲渡じょうと……ですか?」


 俺は能力【譲渡じょうと】と言っているが、イリアは言葉の意味の譲渡じょうとと受け取っているだろう。


「ああ、よかったよ!内心ヒヤヒヤしてたんだっ……あぁよかった、安心した」


 安心して、俺は手を離して後ろにバタンキューと倒れる。

 大の字だ。


 完了したな……もう、俺の中に【念動ねんどう】は無くなった。

 完全にゆずり渡したんだ。

 予想通り、【譲渡じょうと】を使うと……能力が消える。


 いきなり【無限むげん】とか【極光きょっこう】を試さなくてよかったわ……無くなったら、俺が終わる。


「ミオ……どうしてあなたは、そこまで」


 安心して後ろに倒れた俺を、イリアはおどろいて見ている。

 どうしてなんてさ、もう聞くなって。


 俺は、もう自分本位にはならないと決めたんだ。

 人にはそれぞれやり方がある……俺がたまたま、自分本位になったらダメになるタイプ……まぁ言ってしまえば、お節介をする事で自分に余裕が持てる人間だったってだけだよ。


「あははっ……はぁ疲れたっ!イリアは!?」


「え、ええ?い、いえ……私は何も、ですがミオ……」


 色々聞きたそうにするなぁ……でも当たり前か。

 だけど言わんぞ。


 徹底的に誤魔化ごまかすし、イリアにも自分で目覚めた事にさせるから。

 俺の功績こうせきなんぞ要らんのだ。


「――よっし、そんじゃあ寝るかっ!俺は自分のテントに戻るから、ロッド先輩と見張り代わるからさっ……お疲れ~」


「え、あ――ちょっ……ミオ!」


 ババッ――と起き上がり、有無うむも言わさずに俺は動く。

 【譲渡じょうと】の後遺症こういしょうなんかも考えたが……イリアを見る限りそれはなさそうで安心だ。


 あとは明日……実践で試してみようぜ、イリア。


「……ありがとう、ミオ……」


 あれ?なんか言ってたなぁ……最後まで聞けばよかったわ。

 なーんてな。聞こえてるよ……どういたしましてだ、頑張ろうなイリア。

 これから夏までに、強くなってやろうぜ。

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