5-11【譲渡3】



◇譲渡3◇


 俺の能力――【譲渡じょうと】。

 そのお披露目の時だ、精々おどろかせてくれよっ……チート能力!


「さ、集中だイリア。目をつぶって、呼吸を整えて……ゆっくり、ゆっくりと息を吸って」


「で、ですが……」


 不安だろうけど、大丈夫……直ぐ済むから、多分。


「ははっ、大丈夫だって。変な真似まねはしないからさ」


 すまん……内心、手スッベスベだ……とは思ったけど。

 でも心を鬼にして、邪念を追い払う。

 アイシアやミーティア、親しき女性がここにいないからって……変な気は起こさんよ。


 俺は紳士俺は紳士俺は紳士。

 はい、心の洗脳完了。

 こんにちは、どうも紳士です。


「……わ、分かりました……信用していますっ」


 ほらな?俺は信頼されているんだよ。

 だから、さっきの俺の邪念は忘れてくれ、頼む。


「よしっ。じゃあ行くぞ……」


「――はい」


 イリアはスッ――と目をつぶる。

 俺はそれを見てから、にぎる両手に集中する。

 両手には多量の魔力が集められ、もしかしたらほんのり熱いかもしれないな。


「……想像してくれ……暗い、暗い空間だ。そこには何もない、見えない……真っ暗だ。いいな?」


「……はい」


「今は俺の手の感触、それだけに集中だ……ちなみにどんな感じ?」


あたたかいです……」


 うん。それでいい。

 手汗が凄い……とか気持ち悪い……とか言われたら立ち直れないからな。


「俺が今から、イリアに対してゆっくりと魔力を流す。それに乗せて……イリアに能力を渡すから、しっかり感じてくれ」


「……は、はい」


 緊張してるかな?まぁそのおかげで、俺は冷静になれるけどさ。

 言葉を交えながら、俺は魔力を流す。

 初めは少量……基本魔力が低いイリアに、過度かどな魔力は与えられないだろ?


「どうだ?」


「??」


 眉をひそめて首をかしげるイリア。

 そ、そうか……この量は分からないか。


「じゃあ、これは?」


 魔力量を上げる。

 まるで蛇口をひねる感覚だな。


「……う、ん」


 ピクン――と、イリアが反応した。

 あれ……?エロイ。


 すまん……俺は紳士俺は紳士俺は紳士!!


「これが……他人ひとの魔力、なのですね」


「お。そうそう、分かるならそれでいいよ。受け入れるのは難しいかもしれないけど、さっき言った真っ暗な空間に……徐々に光が見えてくるはずだから。その光をつかむ感じだな……」


 一人称視点のゲーム画面……そんな感じで見ると分かりやすいかな。

 真っ暗な画面の中央に、光が出てくるような演出。

 そんな事を考えながらも、俺は続けてイリアに魔力を流す。


「慣れてきたら、“力そのもの”を渡すからな……」


 能力のデータ移動のようなものだな。

 コピーだったら、俺にも能力が残るんだろうけど……残念ながら、【譲渡じょうと】にはその効果はない。


「……」


 いい感じに集中できてるみたいだな。

 なら……行くぞ。


「ん……こ、れは……?」


「分かるか?それが能力だ。まだ譲渡率じょうとりつがほんの数パーセントだから、徐々に使い方も分かっていくよ。少し魔力と脳に負荷ふかがかかるから、気合入れろよ?」


「――は、はいっ」


 俺の経験上、能力が使えるようになった瞬間……めちゃくちゃ疲労が襲ってくるから……しかもイリアの場合、そもそもの最大魔力が低いからさ、慎重にならないとな。


「じゃあ送るぞ?」


 とか言いつつ、実はこっそりと送ってたりして。

 イリアにゆずり渡す力は……能力――【念動ねんどう】。

 無理矢理開花させて習得した能力で、基本レベルは1だ。

 だから、イリアにも使えるはず……これから一緒に成長していく、相棒になるんだ。

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