4-124【様々な真相】



◇様々な真相しんそう


 ロッド先輩が口にするのは、貴族の闇と言えるもの……そのものだった。

 裏組織である存在、魔物を操る人物……そしてその魔物を使って、自分の息子夫婦を殺害した……更には生き残った孫……イリアを売りさばこうともしたらしい。


「――ひどいわね、反吐へどが出るわ」


 クラウが言う。


 正直な感想だと思う……でも、ひどく……そして浅ましい。

 壁に寄りかかるロッド先輩は、自嘲じちょう気味に笑いながら私たちに言う。


「……そうだな。貴族の中でも、クレザース家はまだまだ地位が低い……どうにか功績こうせきをあげたかったんだろう。俺と兄は相当年が離れていたからな、父は、後先あとさきが短い兄にがせるよりも、若い俺を利用しようとしたんだろうさ」


 それもまたひどい話……貴族にはよくあるのかもしれないけれど、子供にとっては、まるで選定されているようだ。


「それでよかったんですか?」


 私は言う。

 貴族ではないけれど、貴族の子息と結婚する可能性があるのだ……考えた事はある。


「――よくはない。兄は優秀だった……俺なんかよりも、才能も人望も、圧倒的にな。だが……父にとっては違う」


「そうでしょうね……その話が本当なら、ロッド先輩は……それこそこまになる所だわ」


 クラウが、遠くで倒れている……あ、取り巻きの二人。

 その二人を見た後に、ロッド先輩を見た。


「……分かっている。耳が痛い話だ」


「ならいいです」


 そうか……ロッド先輩も、あの二人を同じ様にあつかっていたという事を……クラウは言いたかったんだ。

 ロッド先輩の言葉に、クラウは笑う。

 納得、出来たのかな?


「……話を続ける。俺は、父の思うがままにされるつもりはなかった……その手始めに、兄の娘……俺にとっての姪、キルネイリアだ……」


 何よりも“血”を重く見る貴族なら、当然のことかもしれない。

 でも、イリアには認知がないはず。

 将来ロッド先輩がクレザース家をぐにしても、現段階でのイリアの利用価値とは?


「父は、キルネイリアを売ろうとした。闇ギルド……【常闇の者イーガス】にな。だから、その前に俺がキルネイリアを買ったんだ……メイドとしてな」


「――え」


 その事実を、どうやらイリアは知らなかったようだ。

 ロッド先輩が、闇組織に売られそうな自分を……救ってくれていた事を。


 ロッド先輩は、おどろくイリアを見ながらも、少しばかり気恥ずかしそうに。


「俺が、兄の分まで……お前を守るつもりだった。なのにお前と来たら……まさか冒険者を目指すなんてな……だが、すぐに分かったよ。あの魔物――【アルキレシィ】を探しているんだと」


 やり方は強引で、少し荒っぽかったのかもしれない。

 でも、この人なりの確かな想いはあったのだろう。


「坊ちゃん……それでも、私はっ」


「――分かっている。いや、今回の戦いで分かった……無駄なんだろうな、俺は何度もお前をけなす発言をした、時には妨害もしたさ……最低だと分かっていながらもな」


 妨害……?

 それって、まさか。


「――あ、じゃあ……この前、訓練場ここで襲って来たのって!」


 私は言う、シャワー室でイリアを襲ったのは……ロッド先輩だったの?


「直接は俺じゃない。あいつ等だ……命令したのは俺だが、まさかあそこまでするとは思わなかった、少しおどかすだけでいいと、そう言ったんだがな……まぁ今更反省しても、なんのつぐないにもならないが」


 あいつ等……遠くで伸びている二人ね。

 ロッド先輩の取り巻き……だと思ってた、二人の男子生徒。


「行動もまとまらない、命令も効かない……挙句あげくの果てには暴走してキルネイリアを襲おうとした。俺の指示も……まったく意味が無かった。これでは、父のしている事となんら変わりがないな」


 確かに、一人(長髪の男)は、クラウを敵視しているように取れたわね。

 もう一人(トサカ頭の男)は、都合よくそばにいる……そんな感じかしら。


「あの二人が先輩の部下だった時点で、私の勝ちでしたね」


 なんとも嫌味ったらしく、クラウが言う。

 不敵ふてきに笑みを浮かべながら、おちょくるように。


「ふっ……そうかもしれないな。クラウ・スクルーズ……見事な腕だった、一年首席の座は伊達ではないという事か……」


 笑った……ロッド先輩が、クラウの嫌味に。

 この人、もしかして本当にキルネイリアを心配していただけなの?

 やり方も、言葉や態度も間違ったかもしれない……でも、もしかしたら……向き合おうとしていたのかもしれないわね。


 話は大体終わったかしら。

 なんだか、一気に疲れが出て来た気がした。


「ふう~」


 話が一段落し、疲れ果てて私はへたり込む。

 私にかかえられていたクラウは、ようやく離されたと喜んで立ち上がった。


「さぁ~て、帰ろ――」


 クラウが最後まで言葉を言い切る前に。

 遠くから聞こえてくる、男性の声……これは、ああ……教官だ。


「――こらぁぁぁぁぁ!!何の騒ぎだ!このありさまはなんだっ!!誰がやった!!お前らかぁぁぁぁ!?」


「「「あ」」」

「ふっ……」


 私、クラウ、キルネイリアは小さくおどろき。

 ロッド先輩は、この展開を予期していたのか、駆けつけてきた教官を見て、笑うのだった。

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