4-123【取り下げてもらいますからね!】



◇取り下げてもらいますからね!◇


 とても気分がいい……何故なぜだろうな。

 勝ったと思った……完全に俺の勝ちだと、そう思ったのに。


 俺はこうして壁に寄りかかり、動かない身体の痛みに耐えていた。

 全身傷だらけで、光線の雨に何度も貫かれて……正直死にそうだ。


 そうこうするうちに、少女が三人……俺のもとにやって来る。


「……ふふん。気分はどうですか?ロッド先輩」


 一言目がソレか、クラウ・スクルーズ。

 まったく、嫌味もいい所ではないか。


 だが、まぁ……


「最悪……とは言えないな。おかしいものさ」


 俺はフっと笑う。が、それだけで激痛。

 ぐぅ……身体に響く。


「でしょう。私もですよ……気分がいい」


 ミーティア・クロスヴァーデンに子供のように抱かれるクラウ・スクルーズは、笑顔を見せて俺に言う。


「先輩、私の事助けてくれたんですね。ありがとうございます」


 別に、お前を助けたわけじゃない。


「……気まぐれだ。あのまま落ちてくれてもよかったんだがな」


「ふふっ。心にもない事をっ。でもまぁ、私の勝ちですし……今回の事は取り下げてもらいますからねっ!」


 何だろうな、この後輩は。

 ずけずけと入り込んできて。

 だが……そうだな、負けは負けか。


「ああ、分かっているさ。今回の事は、教官たちには報告しない……あの依頼書も、破棄しよう」


 あの依頼書自体は本物なんだがな。


 魔法の道具を使って、ミオ・スクルーズとトレイダ・スタイニーの名をそっくりそのまま記入した事には変わりない。無効なんだよ、そんなものは……初めからな。

 もしあのまま教官の誰かに報告しても、初めから通る物じゃないのさ。


「――坊ちゃん……あの、私は」


 キルネイリア……どうしてお前はそこまで頑張るんだ。

 屋敷にいろと、冒険者なんて目指しても無駄だと、何度も言っただろう?

 馬鹿にした態度で、お前をけなすような事も沢山言った。


「悪いとは思わん。俺は今も……お前が冒険者になる必要は無いと思っている、兄の……お前の父親のかたきは、俺がつと決めていたんだからな……」


「坊ちゃん……まさか、貴方は……」


 本当は、お前は知らなくてもいい事だったんだがな。


「……俺の兄、お前の父レダナを罠にめたのは、当主ダイノ。俺の父で、お前の祖父だ……」


 俺にとって、兄夫婦は理想の家族だった。

 ハーフに偏見へんけんはあったが、仲のいい家族に間違いはなかったんだ。


 年の近い姪っ子、キルネイリア。

 この子が何をしたと言うのか。

 両親を奪われ、居場所を奪われ……それでも前に進むこの子を、守らねば……そう思っていたのに。


「旦那様が……そ、そんな事を……本当に?」


「確かに……当時、うわさはあったけれど……」


 キルネイリアとミーティア・クロスヴァーデンが言う。


「本当さ……兄は家督かとくがないと言った。年が離れている事もあってか……父は次男の俺を後継者に指名したが、残った兄を……父は消したんだ」


 父の狙いは、分家を作らせない為だろう。

 兄は鉱山管理をしていたし、独立してもやっては行けたはずだ。

 無能な自分がおとしめられると、父は勝手に思い込んだんだろう。


 だから自分のライバルになりる兄に、独立させたくなかった……のだと思う。


「そんな……旦那様が」


 外面だけはいいからな、あの男は。

 キルネイリアに対しても、メイドとしては……しっかりと接していたんだ。

 本来の関係性は……大切な孫だというのに。

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