4-122【落下阻止】



◇落下阻止◇


「えっ――ミ、ミーティア!?」


 落ちそうなクラウを目視した瞬間、ミーティアが飛び出して行きました。

 あのままでは二人とも危ないと、内心では分かっていたのに。

 だけど、私に何が出来ると言うのか、自身への失望に胸を締め付け、私はあきらめそうになった。


「――キルネイリアっ」


 そんな時聞こえたのは、倒れていたロッド坊ちゃんの声でした。


「坊ちゃんっ!?」


 瞬発的に、私は駆けた。

 今までに聞いた事のない、優しい声の坊ちゃんの呼び声に。 

 その途中、坊ちゃんは私に向かって叫びました。


「――キルネイリア、かばんだっ!それを急いで持ってくるんだっ」


 苦しそうにしながらも、それでも私に指示を出す坊ちゃん。

 身体は傷だらけで、全身に火傷のような傷を負っているように見えました。


 私は、そんな坊ちゃんの言葉に返事もせずにしたがい、転がっているかばんを持って坊ちゃんのもとに駆ける。


「これですね!何を!?」


「中に【重珠じゅうじゅ】がある、それを俺に!」


 じゅ??……たまっ!

 私はいっその事、かばんをひっくり返して中身を全てぶちまける。


「――あった!これですねっ!?」


 ぶちまけた様々な道具の中に、黒紫色の石がかがやいていた。

 私はそれをむんずとつかみ取り、坊ちゃんへ。


「そう、それだ……【クレザースの血】よっ!」


 坊ちゃんはそれを受け取り、指を噛んで血をにじませます。

 その指先の血を【重珠じゅうじゅ】にらすと。


「これをトレイダ……いや、ミーティア・クロスヴァーデンに渡せっ!」


「――は、はいっ!!」


 坊ちゃんから受け取ったその宝玉を、ミーティアへ。


 失敗は出来ない。

 失敗したら……二人が危ないのですから。

 だから、覚悟を持って――投げた。


「――ミーティア!これを!!」


 少ない魔力で、そのいきおいを加速させて。





 パシッ――!


「こ、これって……」


 受け取った道具の使い方が分からない。

 でも、凄い魔力を感じる。


 確認している暇はない、そう言っている間にもクラウが落ちてしまう。

 私の真上だ、考えていても間に合わないっ!やるしかないのよっ!ミーティア!


「――石よっ!!」


 渡された黒紫の石をかざして、残された魔力を解放する。

 とにかく、魔力さえ注げば何かしら発動するはず、後は――コレを投げてくれたイリアを信じる!


 魔力が注入されると、そのアイテムがかがやき出し。


「……わっ!」


 浮遊感だ。

 まるで身体が羽になったかのように、私は浮き始めていた。


「こ、これって……」


 周りを見ると、紫色のフィールドが円形状に展開されていた。

 その中の私や、訓練場の壊された地面の破片などが、浮かび上がっていた。


 そしてそのフィールドの中にクラウが落下し、中に入ると……あの落下加速がうそのように、ゆっくりと……その速度を緩めたのだった。


「……よ、よかったぁ」


 薄衣うすごろものような重さのクラウをかかえて、私はゆっくりと着地する。

 その瞬間には、手に持っていた石も色を失い……砕けた。

 限界だったんだ、この魔法の道具も。


「ミーティア!クラウ!」


 イリアが駆けてきた。


「……イリアっ」


 イリアを見る私の視線の先には、壁に寄りかかるロッド先輩がいた。

 傷だらけだし、とてもしんどそうだった。


「イリア、もしかして……ロッド先輩が?」


「はいっ。【クレザースの血】を直接付与ふよしてくれて……そのせいで、魔力の制御は出来ませんでしたけど、一度きりの発動ならなんとかなったようです」


 ロッド先輩がどうして。


「――あの人も、守りたいものがあるのよ」


「「クラウ!」」


 よかった……気を失っていたようだから、すぐに気付いてくれて。

 それにしても……顔を赤くするクラウ。どうしたのかしら?


「ミ、ミーティア。恥ずいから降ろして……」


 な、なんて小さな声。

 ああ、でも……恥ずかしいの?お姫様抱っこが。


「でも、立てる?」


「――立てないけど降ろして!」


 立てないならダメでしょう?黙って運ばれなさい。


「あ、ちょっと!無視しないの!!」


 私はクラウの意見を完全に無視して、イリアと共に歩く。

 向かうは、ロッド先輩のもとだ。

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