4-121【見守った者の行動】



◇見守った者の行動◇


 クラウとロッド先輩の戦いは佳境かきょうだった。

 たがいに離れ、魔力の流れが異常にふくれ上がると……ロッド先輩は炎を、クラウはそれを翼で受けた。


 「焼けちゃう!」と思った私だったけれど、クラウは翼に魔力を込めて、それ自体を盾にしたのだった。

 そして、クラウが翼を解除して巨大な【クラウソラス】を振り下ろした。


 ロッド先輩の炎は搔き消されて、爆散……しかし、次の瞬間にはクラウが上空に巻き上げられていた。


 そして、少しばかり二人が何かを話し。

 空中で滞空たいくうするクラウが……光の雨を降らせた。

 私とイリアは、その状況に何も言えないまま……見守るしかなかった。


「――けほっ……けほっっ!な、何だったの?」


「平気ですか、ミーティア……?」


 訓練場全体に襲い掛かる光雨に、私もイリアも何も出来ないままだったが、しっかりと見守っていた……遠くて声は届かないし、あちらの声も聞こえなかったけれど……二人が真剣に戦っていた事だけは分かる。


「え、ええ……イリアは?」


「大丈夫です。ま、周りはひどい有様ですが……」


 イリアは倒れながらも、周りを確認する。

 私はその呆然ぼうぜんとした声に。


「――え」


 ええええええええええっ!!?


 上空まで巻き起こった土煙つちけむりが晴れてくると、その状況が見えてくる。

 く、訓練場が……ひ、悲惨な惨状になっていた。


「一体何が……クラウが魔法?を放ったところまでは、ちゃんと見れていたけど……」


「……坊ちゃん」


「――え?」


 イリアのつぶやきに、私はその方向を見る。

 そこには……ロッド先輩が大の字で倒れていた……なら、クラウは?


 私は周囲を見渡し、そして宙を見る。

 クラウは――まだ空にいた。

 しかし、その背に翼は無く。


 ゆらりと風にあおられて……やがて。


「――クラウっ!!」


 咄嗟とっさに走った。

 あのままでは頭から落下してしまう。


 いくらクラウでも、あの高さから落ちれば怪我では済まない。


「ミ、ミーティア!?」


 イリアの声が聞こえたが、答えているひまはなかった。

 そして、更に小さな声で「キルネイリア」と聞こえた気もしたが、もうどうでもよかった。


 どうする!どうすればいいのっ!私の残された魔力で何ができる!?

 ミオのように地面を操作する事も、クラウのように翼を出すことも出来ない私に。


「クラウっ!!――くっ、聞こえてない!」


 クラウは最後の魔力を使い、魔力切れを起こして気を失っているんだわ。

 このまま行けば、クラウの落下地点までは間に合う。


 でもその後は?

 高さ的にもいきおい的にも、私が受け止められる訳はない。


 そんな時だった――その声が耳に入ったのは。


「――ミーティア!これをっ!!」


 その声はイリアだった。今までにないくらいの大きな声で、私を呼ぶ。

 そちらを見た瞬間、イリアが何かを投げた。

 物凄いいきおいで、私に向かって飛んでくる。


「わっ……っと、これは……魔法の道具!?」


 見事というほかにないくらい、私の胸元にダイレクトに投げられた物を、私は何とかキャッチする……それは――小さな宝玉だった。

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