4-120【光の雨7】



◇光の雨7◇


 残されたのは、この戦いの中ずっと背中に存在し続けた白き翼。

 【クラウソラス】からの派生魔法、【天使の翼エンジェル・ウイング】。

 戦いの最中、防御の為に魔力を何度も注いだ翼は、まばゆいくらいにかがやいていた。


「――先輩、そこまでの実力があるなら、力になんてこだわらなければいい。もっと工夫をすれば、きっと血に代わる何かが得られると、私は思います」


 残された魔力で羽ばたき、何とか宙に浮く。

 下に向けて言う言葉に、ロッド先輩は憎々にくにくしい顔で答えた。


「言ってくれるじゃないか。何も知らない小娘が……」


 そうね……確かに私は知らないわ、貴方あなたの事情なんて。

 でも……その力が本物の強さなのは分かる。

 長年の経験を積んでつちかってきた、本物の力。


「なにかが上手く噛み合えば、先輩の力は……誰かを守れる力になる。私はそう思うんです」


「――!!……誰かを、守るだと?」


「ええ、あれほどの魔法、並大抵の努力じゃ使えません。それは誰が見ても明らかでしょう?それを使う人が、そういう意思を持つことで……さらに高みへと、進んで行けるんですっ」


 私は、無理矢理右手をかかげる。

 もう感覚なんてないけど、それなりに動ければいい。


「……先輩。死なないでくださいね」


「――」


 制御は、多分出来ない。

 だってほぼ……暴発だもの。


「私にも、どうなるか分からないんで」


 随分ずいぶん勝手な言い分になっているけれど、翼の魔力はどうしようもない。

 爆発に近いそれは、少しでも制御を間違えば……ミーティアやキルネイリアにも当たってしまうだろう。

 ……場所は破壊しても、まぁミオに直させればいいからね。


「いきます……」


「来いっ……クラウ・スクルーズ!」


 ロッド先輩は剣を構える。

 きっと、魔力を籠めているのだ。

 私が翼に魔力を籠めて防御した時のように。


 光が熱い、背中が焼けるようだ。

 魔力を最大限まで注いだ翼は、両サイドに広がって身体の何倍もの大きさに見えるはずだ。

 その翼から溢れて来るように……小さな粒子りょうしこぼれ始める。

 これは魔力だ。魔力を注ぎ過ぎて耐えきれなくなった翼から、光となって溢れているんだ。


「光よっ……降り注げっ!!」


 イメージでは、宝石箱だと思った。

 翼から無数にこぼれる光のしずくが、豪華に並ぶ宝石のように見えるのではないかと……安直な考えね。

 だけど違った……そんなきらびやかな物じゃなかった。


 魔力を解放した翼からこぼれた雫は――豪雨。

 一滴一滴が【貫線光レイ】となって……地上に降り注ぐ。


「――え」


 もう止まらない。止められない。

 制御の利かない光の豪雨は、無差別に地上を襲う。

 それはもう、テロだ。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ――!!


「な――!!」


 成す術無く、ロッド先輩に降り注ぐ光雨。

 これでは防御もクソも無い。


 しかも、普通の【貫線光レイ】ではありえない……外傷をもたらして。

 いつもの精神攻撃、魔力の攻撃は……精々火傷のような程度。

 基本的には肉体ダメージはないのだが、この翼からこぼれた光線は、見事なまでに外傷を与えるようだ。


 土煙を上げ、光の雨は悲惨な現場を作り出していく。


「――!……ミーティア、キルネイリア!」


 先輩はともかく、他の二人は。

 いえ……取り巻きではなく。


「――けほっ、けほっ!」

「………ミーティア、平気ですか?」


 あ、あせった……ってしまったかと思ったわ。

 だけど、訓練場はボロボロ……地面は穴だらけ。

 そしてロッド先輩は、光の雨によって吹き飛ばされて……大の字で寝転んでいた。

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